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さらば、沈黙の俳優

2014年11月21日(金)

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 俳優の高倉健さんが11月10日に亡くなっていたことが発表された。
 死因は悪性リンパ腫。83歳だった。

 私自身は、高倉健さん(以下敬称略)について、特別な思い入れを抱いている人間ではない。
 同世代の男の多くが、この人のかなり熱心なファンであったことを思えば、むしろ冷淡な組だったと言っても良い。

 それでも、40歳を過ぎた頃から、この人の演技(というよりも、演じている役柄に対してかもしれない)に、共感を抱くようになった。
 その「共感」については、あとで詳しく説明する。
 とにかく、ひとことでは説明しにくいタイプの俳優だった。

 映画は私の弱点だ。
 演技も苦手分野だ。
 大学に入って間もない頃、まわりにいた映画通の毒気にあてられて、
「オレは映画なんか見ない」
 と、変な決意を固めて以来、映画とは縁の遠い人生を送って、ここまで来てしまった。

 バカな意地を張ったものだと思う。
 わがことながら、自分のケツメドの小ささにあきれている。後悔もしている。

 なので、これから先の余生は、未見の名作を山ほど持っていることを財産と考えることにして、せいぜいブルーレイなどを集めてみようかと思っている。

 話を戻す。

 若い頃は、正直な話、高倉健という人の存在を、うとましく思っていた。
 もう少し具体的に言うと、高倉健演じるところの「黙って耐える男」の重苦しさが、どうにも苦手だったのだ。

 理由は、私自身が、黙ることや耐えることの大嫌いな若者だったからだ。

 以下に述べることは、バカな若いヤツが昔考えていたことだと思って、ぜひ大目に見ながら聞いてほしいのだが、私は、黙っている男は要するにアタマが悪いのだと思っていた。
 耐える男についても、単に意気地が無いのだろうと考えていた。
 うん。
 実にバカな見方だ。
 でも、仕方がないのだ。

 不当に高い自尊心を抱きながら、その自尊心に見合う確固たる自信を持てずにいる若い男は、その種の偏見で自分を支えるほかに生きて行く術を見い出すことができなかったわけで、あいつもあれで悪気があったわけではないのだ。ゆるしてやってくれ。 

 いつだったか、映画通の知り合いと話をしていて、

「日本の俳優が外国の俳優に比べて演技力の上で見劣りがするのはどうしてだろう」

 という話題が持ち上がったことがある。
 その時に、わたしたちは、二つの暫定的な結論を得た。
 ひとつは

「そもそもわれわれ市井の日本人が、普段から感情表現の希薄な能面人格である以上、俳優さんの演技も《おさえた演技》に着地せざるを得ないのではないか」

 という分析で、もうひとつが

「高倉健のせいだ」

 という臆断だった。

コメント57

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「さらば、沈黙の俳優」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師