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お花畑は沈黙すべきか

2015年1月30日(金)

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 2人の日本人が過激派組織「イスラム国」に拘束された事件は、この原稿を書いている時点(2015年1月29日午後6時)で、いまだに解決への糸口を模索する状況にとどまっている。

 人命のかかった緊急事態に、素人が余計な口出しをすべきではないと思って発言を控えていたのだが、よくよく考えてみれば、私がこれから書くことは、事件の帰趨や解決に向けた交渉とはほとんど無関係だ。

 とすれば、事態が動いている間に書き残しておいた方が良い。そう思って、いま現在アタマの中にあることを吐き出してみることにする。

 まず、前提に属するお話について書いておく。
 そもそも「テロに屈しない」態度と「人命を第一に考える」方針は両立しない。
 「テロに屈しない」ためには、「テロリストとの交渉に応じない」ことが条件になる。
 もう少し踏み込んだ言い方をするなら「テロに屈しない態度」とは、具体的には

「要求は無視する。人質の生命は好きにしてくれ。その代わりに、この先、われわれは君たちを罰するためにあらゆる手段を尽くすだろう」

 という最後通告を含意している。

 一方、「人命尊重」の第一歩はテロリストとの交渉に応じるところからはじまる。
 交渉の進め方次第では、敵方の要求をこちらが呑みやすい条件に軟化させることができるかもしれないし、うまくすれば人質を無事に奪還できるかもしれない。

 が、交渉の経過がどんなふうに転ぶのであれ、最初の時点でテロリストの要求に耳を傾けなければならないこと自体は変わらない。

 つまり、整理すれば、「テロに屈しない」ためには、人命が犠牲になる展開を覚悟せねばならず、「人命を尊重」するためには、ある部分でテロに屈する必要があるわけで、つまるところ、政府が掲げているこの2つの方針は、はじめから、相容れない矛盾をはらんでいるということだ。

 サッカーの世界では、「リスクを恐れない攻撃サッカー」と、「無失点を貫く堅守のサッカー」を同時に掲げる監督は信用されない。むしろ、いい笑い者になる。当然だ。泳ぐためには水に濡れる覚悟が不可欠だし、水に入ることを拒む人間は泳ぎはじめることができない。向こう岸まで泳ぎ切ることと水に濡れないことを確約する者がいたのだとすれば、その人間は嘘つきだ。

 安倍晋三首相ならびに外務省は、人質の救命を最優先に行動することと、テロに屈しない旨を同時に表明し、それらの言明を何度も繰り返している。

「2つの言葉のうちのどちらかはウソじゃないか」

 とか、そういうことを言って安倍さんを困らせるために私はこの原稿を書いているのではない。
 外交交渉は、常に矛盾をはらんでいるものだ。政治もまた然りだ。

 緊急事態で指揮を執る人間は、時には2つの相互に相容れない方針を掲げなければならない。内心にどんな戦略を畳んでいるのであれ、国民の生命と国家の尊厳をあずかるリーダーは、内心を真正直に語ってはいけないことになっている。だから、私は、安倍首相ならびに今回の事態の収拾に携わっている人々が、「建て前論」を繰り返していることそのものを批判しようとは思っていない。彼らはやるべきことをやっている。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「お花畑は沈黙すべきか」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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