「伊藤雅俊の「『ひらがなで考える商い』のこころ」」

商売は「難しいことば」で考えてはいけない

必要なのは高度な知識より、深い知恵

バックナンバー

2006年6月19日(月)

1/2ページ

印刷ページ

 松下幸之助さんとはある事柄をきっかけに、お目にかかって親しく経営についてご教示いただけるようになりました。多くのことを教えていただきましたが、あるとき「人材」についてお伺いしました。

 その際、松下さんがおっしゃったことが強く印象に残っています。こう言われたのです。

「伊藤さん、町工場に東大出の人が来たら、それは人材でっか」

 町工場で欲しい人と、大会社で求める人とは、必ずしも同じではない。町工場では頭でっかちの人よりも、例えば骨身を惜しまず働くような人のほうが望ましいのではないか、といった意味でしょう。

 小売業に東大出の人が来たら、それは人材でしょうか。

高度な知識より、深い知恵

 先にも触れましたが、商売を理屈で考える人は伸びないと思います。東大出の人がすべて理屈っぽいかと言えば、決してそんなことはありませんが、大体は身体を動かすよりも頭で考えるのが得意な人たちと言えるでしょう。

 少なくとも小売業では、東大を出ているからといって、それだけで高い評価をする必然性はないと私は思います。商人にも勉強は必要ですが、商人にとって大切なのは、高度な知識というより、深い知恵ではないかと思うのです。

 「商人が漢字や難しいことばでものを考えるようになると、現場から遠ざかっている」というのが私の持論です。

 小売業の経営者も、ある程度会社が大きくなると、現場で接客するよりも、銀行とのお付き合いや同業者との会合が多くなります。頼まれて経営理念を講演したり、ものを書いたりする機会も増えてきます。ときには政府から声がかかり、審議会の委員にと言われることもあります。

 そうこうしているうちに、漢字やカタカナ、難しいことばが会話の中でしばしば出てくるようになります。そうなったときは要注意です。現場が遠のき、肌身で感じ取ることが少なくなって、商いの活力が失われ始めているのです。

 「ひらがなで考える」ことが重要です。「ひらがなで考える」とは、本で読んだり聞きかじって得た知識でなく、実践を通して身に付いた知恵を生かす思考です。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



バックナンバー>>一覧

関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント4 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

伊藤 雅俊(いとう・まさとし)

伊藤 雅俊

1924年東京生まれ。1944年、横浜市立商業専門学校(現・横浜市立大学)を卒業。1956年、羊華堂社長。1958年株式会社ヨーカ堂を設立。イトーヨーカ堂、セブン−イレブン、デニーズなど日本有数のグループを育てる。セブン&アイ・ホールディングス名誉会長。著書に『新装版 商いの道』(PHP研究所)、『商いの心くばり』(講談社文庫)、『伊藤雅俊の商いの心』(日本経済新聞社)ほか。(写真:都築 雅人)



このコラムについて

伊藤雅俊の「『ひらがなで考える商い』のこころ」

この記事は、伊藤雅俊氏が語りおろした『ひらがなで考える商い(上・下)』(伊藤雅俊著・日経BP社刊)を、Web向けに再構成したものです。原文をお読みになりたい方は、書籍の形でご購入になれます。>こちらからどうぞ

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内