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「格差解消」の安倍政権と
あるアジア人の路傍の死

  • 寺山 正一

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2006年9月27日(水)

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 小泉改革の後を継いだ安倍晋三政権に「格差の解消」を期待する声が高まっている。改革路線は継承しつつ、一方で成長の副作用であり、必然の結果でもある経済格差の拡大には、このあたりで歯止めをかけてもらいたい、というわけだ。

 格差について論じる内外の論文や記事を目にするたびに、かつて海外出張で遭遇したある出来事がまぶたの裏に蘇る。その人は、インドネシアの首都から郊外に向かう幹線道路の傍らで、静かに横たわっていた。

 正確に表現すれば、最初見かけた時に明らかに怪我をしていたこの男性は、2度目に通り過ぎた時には既に動かなくなっていた。筆者は怪我人としての彼と死人としての彼に2度、相まみえたのである。

米国でも増加する貧困家庭

 話を日本国内の格差問題に戻すことにする。様々な統計数字を見る限り、多少なりとも格差が拡大している印象が強いのは否めない。昨年度の法人企業統計調査を見ても、売上高、経常利益ともバブル期を上回って過去最高を記録する一方で、従業員給与は必ずしも回復を遂げていない。

 従業員の給与は大企業(資本金10億円以上)で前年度比1%増の587万円と上昇しているが、中堅企業(同1億円以上10億円未満)では1.1%減の415万円といまだに減少が続き、中小零細企業(同1億円未満)は0.2%増とはいえ、絶対額が284万円にとどまっている。

 「社会経済生産性本部」が1991年度から2005年度にかけて計140万人の男性社員を対象に行った調査でも、1998年度から「不安度」の指標が上昇に転じるなど、心理面でも「格差の時代」を裏づける数字が表れている。

 前総務大臣の竹中平蔵氏を筆頭に、改革推進派は「格差よりも貧困が問題で、貧困の問題は欧米と比べても大きな社会問題とはなっていない」との見解を披露する。

 事実、米国では250万の共働き世帯が法定貧困線の年収(1万8392ドル)に達しておらず、全労働者の4分の1に当たる2800万人が、家族4人に最低貧困線以上の生活をさせるだけの賃金を受け取っていない、との指摘がある。(『グローバル企業の成功戦略』スザンヌ・バーガー著より)

1日1ドル以下で暮らす人が11億人

 アメリカですらこんな具合なのだから、世界に目を転じると、「格差」などという言葉では言い表せない貧困がいまだに解消していないのが実情だ。世界銀行の資料によると、2000年代に入っても、地球上には1日1ドル未満の収入で生活しているいわゆる「貧困者層」が、11億人以上、存在しているという。

 ちなみに現在、インターネットの恩恵にあずかっている人口が、世界で約10億人程度と言われている。先進国がインターネットを利用できない「デジタルデバイド」を問題視する一方で、地球上では、パソコン1台買うお金で一家4人が1年間、ようやく暮らしている人々が11億人も存在しているのである。

 統計数字だけ見ているのなら、11億人の貧困層と言われても、いま一つぴんとこないのは致し方ないだろう。貧困の悲惨を説いた文書や写真なら、いくらでも目にしたことがある。しかし、筆者が貧困と人間の尊厳を結びつけて考える際、常に脳裏に浮かぶのは、冒頭で触れた「あの時の一人の死」にほかならない。

半日経っても来なかった救急車

 もう5~6年前のことになるだろうか。インドネシアの首都ジャカルタから郊外の工場に向かう途上のことだった。ロータリーの中を車で通り過ぎた時、人だかりがあって、真ん中に男性が倒れているのを発見した。

 「交通事故なんだろうか」と運転手に聞いてみると、「そうじゃないですか」と気のない返事をよこす。出血はなく、目立った外傷もなかったが、すぐに病院に運んだ方がいい、ただならぬ雰囲気が漂っていた。

 こんな時、医師でもないただの出張者が何をしてあげられるわけでもない。周りにたくさん人が集まっていたし、いずれ警察や救急車が来るだろう、とさほど気にせずにそのまま通り過ぎた。

 問題はその後である。取材を終えて、ほぼ半日が経過しただろうか、同じ道を戻ってくる際に、先ほどの男性がそのまま同じ所に横たわっているのを発見したのである。

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