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悲観の国、スイスから学ぶ

  • 神谷 秀樹

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2006年11月14日(火)

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 スイスでは10月中旬が葡萄の収穫期だ。スイスは輸出していないので、フランスほど有名ではないが、ピノノワールなど、たいへん良いワインの産地だ。私ども夫婦は今年も当家の古い友人であるマチエー家のワイナリーに出かけ、アルプスの急な斜面に張り付いて1日、葡萄狩りに精を出した。

 このワイナリーは、ルマン湖からローヌ川を遡ったシオンとシエールという2つの町の中間にあるが、この地方は2000年前からワインを製造してきたという。そしてこの地方は、急斜面に挟まれた谷間にあるためか、古から敵の進入に対する防御が固く、ローマ帝国時代も独立を維持したとのことだった。マチエー家はスイス最古のワイナリーの1つだそうだが、650年ほどの歴史を持つ。

 葡萄狩りを終えると夜は収穫を祝うパーティーで、多くの「友人のまた友人」に出会い、新たな友人をつくる。今回お目にかかった中には、由緒ある商社のご家族が多かった。中には1750年から日本と貿易をし、日本法人も持っている方がいた。その方は250年以上絶えることなく日本とビジネスをしてきたとのこと。「第2次大戦中もですか」と尋ねると「そうだ」と返してきた。スイスは永世中立国であり、第2次大戦中も日本との貿易の火を消さなかったのである。

 また別の方はキャビアの販売をしているという。「販売しているのは、主にロシア産ですか」と尋ねると、「ロシア産はロシアン・マフィアに牛耳られて手を出せなくなり、それに換えてイランでチョウザメを養殖し作っている」とのことだった。このご時世に「イランで」、ということに意外性を感じたが、これも永世中立国の会社だからなせる業と合点した。

スイスがバンキングの国である理由

 私とスイスの関わり合いは、1983年に始まる。当時、住友銀行(現三井住友銀行)の国際企画部に勤務し、スイスのルガノにあるゴッタルド銀行の買収に携わった。住銀がスイスの銀行を買収したのは、端的に言うと「スイス・バンキングはスイスの銀行にしかできない銀行業務で、自分たちの手で現地法人をつくり、日本から職員を送ってもマネごと程度しかできない」と考えたからだった。住銀はその後10年ほどゴッタルド銀行を保有した後、日本の不良債権処理の資金作りのために売却したが、買収によって多くのことを学んだはずだ。

 スイス・バンキングは何を拠り所に成立しているのだろうか。突き詰めれば「永世中立国」という道を歩んでいる背景が、最大の基盤だということに行き着く。かつて大国から圧力を受けてきたスイスは1815年、ウィーン会議で永世中立国として認められた。

 スイス人は自らを「悲観する国民」だと言う。常に最悪の事態を想定して行動の意思決定をするのだ。スイスの家庭ではどこも地下に核シェルターを持ち核攻撃に備えている。「悲観する国民」を象徴する風景がここにはある。リスクと常に向き合う金融ビジネスにおいて、悲観的な態度は決してマイナスにはならない。

 スイス人が悲観するのは、大国に翻弄された歴史だけがもたらしているのではない。山国で、交通の要となる港を持たず、産業を興すには立地条件はすこぶる悪いということも関連している。だが、そうした不利を抱えながらも、国別競争力の国際比較では、常にトップにランクされてきた。主たる産業は、時計などの精密工業、銀行業、そしてチーズやワイン、チョコレートなどの食品、製薬だ。世界各地で地域経済協定が広がる中、スイスはEU(欧州連合)に加盟せず、通貨もユーロでなくスイス・フランのままだ。それでも競争力を保っている。

いつまでも戦後体制を維持できない

 こうしたスイスの姿勢は、「日米安保条約の下で経済力は世界2位」という現在の日本がこれから「あるべき国の形」を探る手本となるはずだ。私がそう考えるのは、「美しい国スイス」への単純な憧れではない。国際経済秩序は、第2次大戦後に構築され、そして我々が長らく親しんできた経済体制、すなわちトップ米国、2位日本、3位欧州というものから、大きく変わろうとしているからだ。

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