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提携スクープ、そしてゴーンからの依頼

2006年11月14日(火)

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 掲載の間が空いてしまってスミマセン。そして励ましのメールも頂戴しました。どうもありがとうございました。

 さて、日産・ルノー提携交渉にフランスを訪れた塙社長(当時)を追いかけて、着の身着のまま、ロンドン支局→パリ→日本行きのエールフランス(ファーストクラス)までたどり着いた私。ファーストコンタクトは無事済みました。

 2時間も眠ったでしょうか。私が目を覚ますと、前の座席の塙社長は、読書灯をつけて書類を読んでいました。

 勝負時です。

 「ちょっと、よろしいですか」
 「ああ」

 もう観念はしていたのでしょう。塙社長は書類をしまいながら、こちらに顔を向けました。

 「先ほどの(日経に載る予測)記事ですが…」

 「当惑している。方向はともかく、数字はまだ決まっていない。こんな記事が出ると、相手側(ルノー)に不信感を持たれる恐れがある。だいたい、どうしてこんな数字が出てくるんだ」

 塙社長は、先ほど私が渡したゲラ刷りを取り出し、主見出しの「5000億円出資」のところを指ではじきながら、難しい顔をしています。しかし「方向はともかく」の一言で、「記事の大筋は正しい」と教えてくれているわけで、そこを汲み取らなければいけません。

誠実に答えてくれた塙社長

 「日産が出資を受け入れる、ルノーが出資するという方向では一致していると…」
 「それはそうだ。しかし、向こう(ルノー)はボードメンバー14人のうち会社側は彼(ルイ・シュバイツァー会長)1人。あとは全員が、フランス政府や、労働組合や、その他いろいろなところから来た社外取締役だ。(シュバイツァー会長が)彼らを説得する前に、こんな数字が出るのは困るんだよ」
 「なるほど」
 「そうだとは言わないが、もし仮に、この数字(5000億円)がドンピシャだったとしたら、どこから漏れたんだということで、彼にあらぬ疑いがかかるかもしれない。そうすると交渉にも影響が出てくる」

 「分かります。しかし間合い、という意味では、前のダイムラークライスラーの時よりはるかに近いわけですよね」
 「うん、まあね。しかしダイムラーとも(経営者同士の関係は)良かったんだよ。途中で株主がいろいろ言い出して駄目になったんだ」
 「シュバイツァー会長が他の取締役に日産への出資について説明するのは16日の取締役会ですか?」
 「あちらのことは分からない。しかし、取締役会に提案するのは彼だから、彼が説明し、他の取締役を説得しなくてはならない。どういう結果になるかはまだ分からんよ」
 「国が大株主のルノーは半分、国営企業みたいなものですから、意思決定のプロセスも普通の会社と違うんでしょうね」
 「その辺はよく分からない。いずれにせよ交渉ごとだから、先行きは分からんよ。こんな報道が出ると、またこじれるかもしれんなあ」

 言葉の厳しさとは裏腹に、塙社長は答えられる範囲で答えようという誠意を見せてくれました。

 会社の存亡をかけたトップ会談を、望ましい方向で乗り切った安堵感もにじんでいました。

 「すまないが仕事があるんで、このへんで勘弁してもらえないか」
 「ありがとうございました。ご健闘をお祈りしております」
 「うん…」

 塙社長は再び、ひざの上の書類に視線を戻しました。

下のフロアから押し問答の声が

 後ろの席に戻った私は、ノートを出して、今の会話をメモにしました。巨大M&Aの交渉を終えた直後の経営者の生の声など、めったに聞けるものではありません。言葉のニュアンスから表情まで、できるだけ克明に残すのが記者の使命です。

 メモ起こしに30分近く没頭し、ふと顔を上げると前の席の塙社長は、再びぐっすり寝入っていました。とんぼ返りの強行日程と厳しい交渉で、疲れが出たのでしょう。メモを取り終わってほっとした私も、つられて眠り込んでしまいました。

 目を覚ますと、もう飛行機は着陸態勢に入っていました。手洗いに行くついでに散歩がてら下のフロアに降りていくと、階段の下で日本人の男が客室乗務員と押し問答をしていました。

(※このコラム筆者が描いた、三洋電機の光と陰の生々しいドラマが本になりました。「告白 三洋電機・井植敏の栄光と挫折」です。ぜひご覧下さい:NBオンライン編集部)

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「提携スクープ、そしてゴーンからの依頼」の著者

大西 康之

大西 康之(おおにし・やすゆき)

ジャーナリスト

日本経済新聞産業部記者、欧州総局(ロンドン)、日経ビジネス編集委員、日本経済新聞産業部次長、産業部編集員などを経てフリーのジャーナリストに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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