「どうしてブックオフで買ってしまうのだろう」
“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。古本を額面の10分の1で仕入れ、半額で売る。売れなければ100円に値下げする。単品管理もMDもあったものじゃない。客の眼からも同様だ。自分を例に考えてみても、クルマで行ける範囲に古書チェーンはいくつも存在する。在庫は持ち込むお客次第なので、並ぶ本に基本的に差はないはず。にもかかわらず、ブックオフだけがめったやたらに強い理由はどこにあるのだろうか。
今回の取材に同行して、理由は店頭そのものにあると気がついた。店頭とはすなわち現場、そしてそれを支える人間のことだ。
その強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろすのがこの連載だ。「人を育てるノウハウは、マニュアルと違って一朝一夕では真似できない」という自信ゆえか、語り口の率直さはこちらが驚くほど。考えてみれば、パート出身の彼女を社長に据える会社である。自信の程ももっともだ。記事は今回から毎週1回お送りする予定。ブックオフの強さの「育ての母」の生の声を存分に味わっていただきたい。インタビューと構成は日経トレンディ、週刊現代、読売ウィークリーなどで活躍中のライター、長田美穂氏。写真は鈴木愛子氏にお願いした。
(日経ビジネスオンライン編集部)
|
|
|
2006年5月16日の午後5時。「次期社長は橋本真由美」というプレスリリースが東証の記者クラブに流れました。私、橋本真由美はちょうどそれまで東京オフィスで役員会をやってまして、終わってから相模原の本社に戻りました。広報の女性が、「明日、ひょっとしたら取材の申し込みが少しはあるかもしれないので、橋本さん、白髪染めをしてきてくださいね」と言いました。じゃあ明日の午前中、美容院にいってくるわなんて言っていたんです。
するとまもなく、会社に電話がかかってきた。すぐに電話はじゃんじゃん鳴りっぱなしに。
「橋本さんってどんな人ですか」「パート出身って本当ですか」「取材をさせてほしい」
申し込みは増えるばかり。でもその時点では、まだ、事態が飲み込めていなかったんです。
翌朝、美容院にいると、広報から大あわてで、携帯に電話がかかってきました。
「会社にマスコミからの取材依頼がたくさん来ています。記者会見しますから、すぐ戻ってください」
何がなんだか分からないまま、会社に戻ると、スーツをあわてて着こんだ社員たちが2階の会議室の周りであたふたしていました。
いざ、時間となり会場に足を踏み入れるとフラッシュの洪水が浴びせられ、目の前が真っ白に。机に座ると、にょきにょきと山盛りになったマイクが置いてある。
しどろもどろになって、顔を上げられなくなってしまいました。
白髪染めにまで気を配った効果があったのかどうか、分かりません。「相模原のシンデレラストーリー」なんて報じてくださったメディアもありました。
なにはともあれ、売上高260億円(単体・2006年3月期)、880店舗(同9月)の企業、ブックオフはこの私、橋本真由美に託されることになったのです。
短大卒、専業主婦、パート出身
かくして2006年6月24日、私、橋本真由美はブックオフコーポレーションの社長になりました。パートで採用された人間が、東京証券取引所1部上場企業の社長になるのは、とてもめずらしいことだとか。
おまけに私はブックオフで働き始める前は、専業主婦でした。私の日々はといえば、夫の会社の運動会に大張り切りで豪華なお弁当を作ったり、2人の娘の尻を叩いて塾やピアノに通わせたり−−。私の役割はどこまでも、「夫を支える妻」であり、「教育熱心なお母さん」だったのです。
学歴だって、短大卒です。それも栄養学専攻。今をときめくMBA(経営学修士号)なんて遠い世界の話。経営学のケの字も知りません。
そんな私がなぜ、社長になれたのか。
次ページ以降は「日経ビジネスオンライン会員」(無料)の方および「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみお読みいただけます。ご登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。









