「ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」」

(3)お母さんは、「ちゃんと見ている」んです

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2006年12月6日(水)

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 私はブックオフに入ってから、何度も涙を流しています。店員や社員を目の前にしてのこともあれば、1人の時間にひっそりとという時もありました。

ブックオフ社長 橋本真由美氏  (写真:鈴木 愛子、以下同)
ブックオフ社長 橋本真由美氏  (写真:鈴木 愛子、以下同)

 最初に泣いたのは、2号店の売り上げが伸びず、坂本から閉店を言い渡された時でした。1991年元旦、私はパートのまま2号店の店長の役割を言い渡され、店を開きました。社員になったのはその年の8月。でも喜びもつかの間でした。その年末、クリスマスイブの日に坂本がやってきて「橋本さん、もう、シャッターおろそうよ」と言うのです。

 力不足だった。18年も専業主婦だった人間が店長だなんて、何を思い上がっていたんだろう、私…。

 そのとき私が流してしまった涙が、すべての始まりになりました。


「全従業員の物心両面の幸福の追求」は、絵空事ですか

 ブックオフの経営理念は2つ、「事業活動を通じての地域社会への貢献」「全従業員の物心両面の幸福の追求」です。

 前者はまあ、どこの会社が掲げてもおかしくないでしょう。けれども後者については、絵空事じゃないのと思われる方もいるようです。かつて「お客様は神様です」と言われました。今なら「株主様は神様です」とでもいうような、株主至上主義の時代です。

 でもブックオフは違います。会社は従業員の幸福のために存在するのだ、と真剣に考えています。絵空事を現実にするのが経営なのではないでしょうか。

 このことは、2004年の東京証券取引所第2部上場の時、坂本(孝・当時社長、現会長)が東証での最終審査の面接で、はっきり断言しました。

 実のところ上場に向けての作業は、数年がかりの課題でした。まず店頭市場にと準備を進めてみると、当時の主幹事証券会社との意見の衝突があったり、何かと問題が生じて立ち消えになった経緯がありました。何より上場するには、ありとあらゆる数字の開示を求められ、事務作業量が膨大になり、スタッフは疲弊しきっていました。会社が他人資本になることの重さ、難しさをみなが痛感していました。

 その最後の審査です。ああこれを乗り切れば終わる。坂本と専務の栗山(英紀)、そして常務の私は3人、体を固くして東証の役員の方の前に座ったのです。

 東証の役員の方が、「上場の目的は何ですか」と坂本に聞きました。

 −−坂本さん、この場くらいは模範解答してくださいね。「私たちの事業を通じて日本の株式市場の振興に寄与したい、とか」…。私は祈るような気持ちでした。

「従業員を大きく育てるためです。株主のため、お客様のためだけではない。まず従業員を大切にして、育てることで会社は育つんです」

 坂本はこう言いました。

「従業員至上主義の会社だからこそ、強い現場を作ることができる。それがひいてはお客様のための、よりよいサービスにつながるんです」

 東証の役員の方は、静かに仰いました。

「坂本さん、パーフェクトです」。パーフェクト、と2回、繰り返しました。

では、どうやれば従業員を「幸せ」にできるか

 あの瞬間、忘れられません。自分たちの考えが通じたんだ。以前の主幹事証券会社の担当者に何度言っても通じなかった、自分たちの考えが、分かる人には分かってもらえるんだ。

 この発言を機に、ブックオフは「お客様は神様」の会社ではなく、ましてや「株主」のための会社などではなく、「従業員」のための会社なのだとの思いを私は改めて強くしました。上場から2年後に社長を託された私の使命は、橋本真由美らしく、いわば「お母さん流」に、従業員の物心の幸せを追求することなのだと考えています。

 さて従業員の物心の幸せといっても、物質的な幸せなら分かります。業績を上げて、新しい店を作って、従業員が豊かになれる舞台を作るのが、経営者の役割です。

 けれども心の幸せ、って?

涙が若いバイトさんに「動機」を渡した

 話は最初に戻ります。

 坂本から2号店の閉店を言い渡されて、はらはらと涙がこぼれました。私は若いスタッフたちに見せまいと店の外で泣きました。すると、

「橋本さん、どうしたの?」

 通りかかったアルバイトの男の子に声をかけられました。

 「閉めることになったのよ」。うろたえた私は、つい、漏らしてしまったのです。

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著者プロフィール

長田美穂(ながた・みほ)

ジャーナリスト 1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本経済新聞記者を経て1999年よりフリーに。消費社会、性と社会問題をテーマに執筆。著書に『ヒット力』(日経BP社)『問題少女 生と死のボーターラインを揺れた』(PHP研究所)など。 



このコラムについて

ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」

“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。にもかかわらず、ブックオフだけが勝ち残ってきた理由は、現場(店頭)にある。

 この連載では、ブックオフの強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろす。同社の「育ての母」の生の声を存分にお聞きいただきたい。インタビューと構成は日経トレンディなどで活躍中のライター、長田美穂氏、写真は鈴木愛子氏が担当する。

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