「ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」」

(4)当社には「親」「子」、従兄弟も孫もいるんです

バックナンバー

2006年12月13日(水)

1/2ページ

印刷ページ

第3回から読む

 「誰かが見ていてくれる」実感が得られれば、人はがんばれるもの。

 前回お話しした、2号店の大失敗と復活から私はそれに気づきました。考えてみれば、私がそうだったのです。主婦の仕事は家庭では評価されません。でも店で小さなアイデアを出し、実行すれば、坂本が「それいいね」と評価してくれた。2号店では、それがなくて最初は辛かった。空回り感がありました。でも私の涙にスタッフが反応してくれたことで、気づいたのです。見ていてくれるのは、上の人だけじゃない。一緒に働くスタッフだって、見守っていてくれるのだと。

 嬉しい。もっとがんばろう。期待に応えよう。この気持ちが、人の働く意欲となり、ひいては強い現場を生み出す原動力になるのです。

「親」としての評価が、社内で最も重視される

ブックオフ社長 橋本真由美氏  (写真:鈴木 愛子、以下同)
ブックオフ社長 橋本真由美氏  (写真:鈴木 愛子、以下同)

 ブックオフでは、「親子制度」というシステムがあります。システム、という言葉は、厳密にはふさわしくありません。明文化されたものではなく、けれどもだれもが日常的に話題にし、ありがたみを感じている。それが「親」であり「子」の存在なのです。

 たとえばヤマダさんという新人がいる。新人には必ず「親」が付き、仕事を手取り足取り教えます。ひよこが初めて目にした「動くもの」をずっと自分の親だと思い込むように、ヤマダさんの親にイチカワさんが付いたとすると、何年経っても異動して勤務店が変わっても、イチカワさんはヤマダさんの親であり、ヤマダさんはイチカワさんの子なんです。

 子は何でも親に相談し、親は何があっても子を育てようとします。その「人財育成」の実績は、売り上げや利益の数字より、その人にまつわる評価として、社内を駆けめぐります。

「ヤマダ店長の新店、すごい売り上げだね」
「親はだれだっけ」
「たしかイチカワさんですよ」
「すごいねイチカワさん」

 こんな具合です。

 だから子が店長に昇格したとなると、親は気が気ではありません。ひそかに関係者に根回しをしたり、商品を集める準備を手伝ったりして。子の新店の決起会や朝礼では親は、本当に、娘を嫁にやる父親のような顔をして、心配しています。ひよこのうちから育てた子が羽ばたくとなると、自然に、親もうれしくなる。逆になにか失敗をした時には、親身になって慰め、相談にのる。

 そんな関係を育めるような社内の“システム”が、いつの間にかできあがっていたのです。

孫、兄弟、従兄弟だっています

 ヤマダ店長もまた、時が経つと誰かの親になります。その「子」、イチカワさんにとっては「孫」の評価も、ヤマダさんを経由してイチカワさんにかかってきます。「やっぱりイチカワさん、すごいよね」と。あるいは逆だとか。

 兄弟も生まれます。イチカワさんの子供同士なら、ヤマダさんは気を許して、助けあおうとします。結束のつよい親子関係からは、兄弟が発展して従兄弟も生まれます。大の大人が、何の血縁でもないのにやれ「親子」だ「兄弟」だ「従兄弟」だと言って相好を崩し、助け合っている姿はなんだか不思議です。でも親から大切に育てられた人は、他人を大事にすることができると言いますよね。だから店長はアルバイトさんを大切にしようと言います。それを続けていれば、人を大切にするエリアマネージャーの下に、人を大切にする店長がいて、アルバイトさんがいて、という組織ができる。

 場合によっては、人事的には子が親を逆転することもあります。でも派閥じゃなくて、親と子という概念なので、いわゆる人事や出世の枠組みを超えて、子の幸せを喜べるんです。これは面白い感覚です。作ろうと思ってある日、発表したような制度ではありません。自然に、だれが親、だれが子という言い方が生まれ、定着したのです。これも先ほどのモーレツお母さんの話ではありませんが、初期のうちからブックオフではスタッフが家族的な雰囲気を作り上げていたせいなのでしょう。

親子だって時にはこじれますが…

 けれども現実社会には、親子関係のこじれはあるものです。うまくいかない親子関係もある。ブックオフでもそれは同じです。

 ある時、アルバイトさんとの人間関係がどうしてもうまくいかなくて、悩んでいる社員がぽつっと言いました。

「俺たち、親は自分で選べないもんな」

 彼は自分の親ともうまくいっていなくて、悩みを相談できる人がいなかったのです。

 これはいけない、と思いました。不満を抱える人が店に1人いると、周囲のアルバイトさんやパートさんにも影響があります。ガード下で焼き鳥を食べながら上司の悪口をいうようなカルチャーは、ブックオフからは排除したかったのです。

 それに辞めた人のことを坂本と私が振り返ってみた時、「あの子は惜しかったな」と悔しがるような人には、人間関係に恵まれず力を出し切れなかった場合が多かった。

 だから親子の仕組みに手を入れることにしました。子は2人の親に付くことにしたのです。1人の子に、2人の親。2人いれば、どちらかと相性が悪くても、どちらかとはうまくいくでしょう。それに1人しか親がいないと、その親が退職してしまうと、子は孤児になってしまいますから。

 かくいう私にも、親子関係では辛い思い出があります。この会社に今までいて、一番辛かった出来事かもしれない。

 それは2号店の時から一緒にやってきた、私の本当に大事な“子供”とのことです。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント3 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

長田美穂(ながた・みほ)

ジャーナリスト 1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本経済新聞記者を経て1999年よりフリーに。消費社会、性と社会問題をテーマに執筆。著書に『ヒット力』(日経BP社)『問題少女 生と死のボーターラインを揺れた』(PHP研究所)など。 



このコラムについて

ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」

“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。にもかかわらず、ブックオフだけが勝ち残ってきた理由は、現場(店頭)にある。

 この連載では、ブックオフの強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろす。同社の「育ての母」の生の声を存分にお聞きいただきたい。インタビューと構成は日経トレンディなどで活躍中のライター、長田美穂氏、写真は鈴木愛子氏が担当する。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内