「宋文洲の傍目八目」

熱心なほど、教育に失敗する

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2006年12月14日(木)

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 「愛情を込めて作った料理は、おいしい」

 この言葉は、食べる人が作る人への感謝の言葉であって、愛情を込めた料理が本当においしいとは限りません。これは園芸職人が「精魂込めて花を育てれば、必ず綺麗になる」とはまず言わないのと同じです。腕の立つ園芸職人は、花をどのようにして育てれば綺麗になるのかを、理論と経験から熟知しているものです。

 聡明な読者の方にあえて言うまでもありませんが、料理にしても園芸にしても愛情は必要なものですが、それさえあれば済むような十分なものではありません。むしろ愛情に酔いしれて、冷静な状況判断ができなくなる危険性さえあります。特に教育の場合の愛情は、注意が必要です。

 教育熱心の親御さんというのは、古今東西います。教育に無関心な親よりは関心を持っている親の方がいいとは思いますが、注意が必要なのは、教育熱心の親御さんというのは、往々にして自分が熱心であることに満足してしまいます。「自分は、これだけ子供に愛情を注ぎ込んでいる」と自己陶酔しているのです。

 教育ママやパパには認めたくないことかもしれませんが、子供を成長させるのは親の情熱というよりは、その子にとっての成長する条件や場なのです。親がいくら熱心になっても、子供にとって感ずる体験がなければ、親の努力などは水泡にきしてしまうのです。逆に、親が何もしなくても、子供がどこかで感ずることができれば、親の知らぬところで子供は成長していくものなのです。

「何もしない」教育もある

 先日、ある財界の人物を訪ねた時に、壁に掛っている力強い書に僕は目を奪われました。筆者は世界的に有名なデザイナー、コシノヒロコさんでした。

 「小篠さんは、弘子さんのみならず3姉妹が、それぞれ立派な方で、有名です」

 その話を訪問先で聞いて、子育て最中の僕は思わず興味を持ち、質問してしまいました。「小篠さんのご両親は、どうやって彼女たちを教育したのでしょうかね」と。その人は小篠弘子さんの親友だと聞いていたからです。

 答えを聞いて驚きました。

 「何もしないこと。弘子さんたちは片親で、お母さんが家族の生活のために1日中ミシンを踏み続けたのです。その忙しさから、ご飯の時はイワシを焼いたらそれだけ。姉妹で喧嘩をし始めて、仲介はしない。弘子さんたちがどうやって大きくなったかを、お母さんは思い出せなかったそうですよ」

 この話を聞いて僕が感じたのは、小篠さんのお母さんはもちろん育児や教育を放棄したのではなく、子育てということを特別に意識していなかったことだけなのだと。そして小篠さんたち子供たちは、お母さんの生き方や、家族と一緒に積み上げてきた経験を通じて自ら育ったのです。

 「何もしない」の教育は放棄ではなく、親と共に、逆境を克服していく意欲や忍耐力、感性を身につけさせているのです。子供が育つのは、客観的な過程であり、親の主観的な思いではありません。

愛情に満足してはならない

 愛情とは形がないだけに、思い込みでいくらでも膨らんでいくものになりやすいのです。恋愛で、片思いに悩んだり失恋して苦しい時に「これだけ好きなのに、愛しているのに、なぜ」と思ったことは、誰しも経験があると思います。悲しいことですが、自分の思いが相手にとって、何の愛情にもならないことはあるのです。

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著者プロフィール

宋 文洲(そう・ぶんしゅう)
ソフトブレーン
マネージメント・アドバイザー

そう・ぶんしゅう

1963年6月中国山東省生まれ。84年中国・東北大学を卒業後、日本に国費留学する。90年北海道大学大学院工学研究科を修了。天安門事件で帰国を断念し、日本で就職したが、勤務先が倒産。92年ソフト販売会社のソフトブレーンを創業し、代表取締役社長に就任、99年2月代表取締役会長に。2000年12月に東証マザーズ上場、2005年6月に東証1部上場を果たす。2006年1月代表権を返上し取締役会長に、同年8月31日、「もう1人の社長」「陰の実力者にならない」として、取締役会長を辞任し、マネージメント・アドバイザーに就任する。(写真:川口 愛)



このコラムについて

宋文洲の傍目八目

日本人が意外と気づかない視点を、『ここが変だよ日本の管理職』『やっぱり変だよ日本の営業』などの著書でおなじみのソフトブレーンのマネージメント・アドバイザーである宋文洲氏が独特の切り口で紹介します。

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