「ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」」

(8)「気持ちよくお金が払える」人になりたくて

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2007年1月17日(水)

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「オープンです。いらっしゃいませ」

 扉を開けると、店内にお客さんがなだれ込んできました。

 ああ本物のお客様だ。あらためて実感しました。練習していたとはいえ、レジでお金の受け渡しをするという行為さえ、私にとっては初めての体験です。無我夢中とはあのことをいうのでしょう。あっという間に1日が終わりました。

 その日の売り上げは、65万円でした。これは今のブックオフの1日の1店の売り上げとしても、立派な数字です。

 1号店は順調に滑り出しました。

お客様の声で、欠陥に気づく

ブックオフ社長 橋本真由美氏 (写真:鈴木 愛子、以下同)
ブックオフ社長 橋本真由美氏 (写真:鈴木 愛子、以下同)

 ブックオフの仕組みの基本は、1号店のオープンから1、2年かけて、私たちパートやアルバイトが「こうした方が」「ああした方が」と言い合って、それを坂本がとりまとめてできあがりました。

 開店した時は、本の値付け方法だってきちんと決まっていなかったのです。

 1号店を開いて何カ月かした時のことでした。

 ある程度の量の本を持ってきてくださったお客様に、査定をして、1500円ですと申し上げました。するとその方が、店を出た途端、こう仰ったのです。

「やったー、あれだけの本が1500円だったよ」

 坂本はそれを聞いて、「まずいな」と思ったそうです。

 今日は1500円だった、ラッキー。でも同じくらいもってきたこないだは800円だった。こういうことが頻発すると、お客様がそのうちなぜ今回と前回の値段がこんなに違うのか、お聞きになるでしょう。なんと答えるか。

 うちは神田の古書店じゃない。ありとあらゆるジャンルがある書籍の世界の中で、目の前の1冊に値付けする知識をもつ人間は揃えられない。バイトやパートが、いちいち「店長これはいくらですか」とやっている時間はない。パートの主婦である私みたいな人間であっても、簡単に本の値付けをして買い取ることのできる仕組みを作らなければならない。

 そこで、状態の良い本は定価の1割を基準とした値段で買い取り、およそ定価の半額で販売しよう、それから買い取る本の判断基準は、きれいであること、最近発行されたものであること。これは坂本があちこちで言っていることですが、ちょうど消費税3パーセントが導入された1年後でして、「本体価格」という表示がついたりISBNがついたので、新しい本と古い本の見分けが簡単につくようになったのも、私たちにとっては助かりました。

紙ヤスリの番手も試行錯誤

 紙ヤスリで削ってきれいにするという方法だって、書籍の業界では当たり前でも、私たちには手探りだったのです。ヤスリの目が粗すぎるとギザギサになるし、細かすぎると削るのに時間がかかる。文房具屋さんに行って、いろんな番号の紙ヤスリを買ってきました。それを適当に破るんじゃなくて、何センチ×何センチが一番、手にあたりがよくて使いやすく、無駄にならずに切り取れるかと考えました。

 いや紙より金属を磨くたわしがいいのではないか、スキー板を磨くヤスリがいいんじゃないかと、ありとあらゆる方法を試してみました。

 150番の紙ヤスリを、4センチ×7センチ。これが最終的に落ち着いた「結論」でした。このヤスリ論議も、開店後1、2年間続きました。

 久しぶりの職業復帰で、私は緊張しました。でも、疲れるよりすぐに持ち前の好奇心がむくむくと頭をもたげてきました。

 思い出したのは、もう亡くなった祖父がよく話してくれたことです。大きな産業や企業があるわけではない福井の田舎の、明治生まれの人間の話なんですが、働き始めてから、このことかと合点がいったのです。

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著者プロフィール

長田美穂(ながた・みほ)

ジャーナリスト 1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本経済新聞記者を経て1999年よりフリーに。消費社会、性と社会問題をテーマに執筆。著書に『ヒット力』(日経BP社)『問題少女 生と死のボーターラインを揺れた』(PHP研究所)など。 



このコラムについて

ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」

“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。にもかかわらず、ブックオフだけが勝ち残ってきた理由は、現場(店頭)にある。

 この連載では、ブックオフの強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろす。同社の「育ての母」の生の声を存分にお聞きいただきたい。インタビューと構成は日経トレンディなどで活躍中のライター、長田美穂氏、写真は鈴木愛子氏が担当する。

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