「神谷秀樹の「日米企業往来」」

クラッシュは、ある日突然やってくる

バックナンバー

2006年12月26日(火)

1/2ページ

印刷ページ

 ブラックマンデーはある日、突然やってきた。ベルリンの壁崩壊、9・11(米同時多発テロ)もそうだった。

 上の出来事と比べると地味かもしれないが、大手ヘッジファンド、LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)の破綻も予告なしに訪れた。

 「北朝鮮が突如、崩壊して難民が日本に大挙してやってくる」というのも、将来起こり得る話だろう。

強欲になっているのか

 例を挙げれば切がないが、現代社会においてクラッシュは何かが臨界点に達した時に、突然起こるのが常となっている。クラッシュが起きた後に、「今から見れば、あれがその予兆だった」と振り返ることはできるが、いつ起きかを事前に予測するのは地震の予知と同じくらい難しい。

 だが、人には科学的には証明できないが、経験などから研ぎ澄ましてきた第六感みたいなものがある。クラッシュの影響が如実に表れる金融の世界で長年飯を喰ってきた者には、クラッシュが起きそうなのか、そこまでいきそうにもないのか、という匂いを何となく嗅ぎ分ける臭覚がだんだん育ってくる。

 金融の世界では、クラッシュとはバブルが破綻する時だ。バブルは社会全般で、人々がどの程度強欲になっているかを見ることで、容易に見分けられる。例えば、特定の商品が本来持っている存在意義に基ついて取引されているのかどうかを見極めれば良い。チューリップは育てて見るためにあるし、ゴルフの会員権はプレーするためにある。ホテルの部屋は人を泊めるためにあるし、天然ガスは燃料とするためにある。ところが、これらの商品は何れも本来の目的を外れ、高値で売るためにのみ買われることがあった。

 本来持つ目的を超えて投機の対象になった時に、バブルのエネルギーは充満していく。ある人が儲かるからと、借金をしてまでその商品を買って高い値段で売り抜ける。それを見て、別の人が同じように売り抜ける。高値で売っても、次の買い手がいれば、値はさらに上がり続ける。

 しかし、買い手は永遠に出てくるわけではない。買い手が誰も出てこなくなる時期は、いつかはやってくる。投機の熱が冷めた時、商品は本来の目的に使用する適正な水準に戻ってくる。投機に参加した人の中に、借金を返済できなくなり、不良債権を抱えてしまう人が出てくる。

 欲深い人間の存在と、投機の対象と、過剰流動性があれば、いつでもこの現象は起きる。時を超えてバブルが起きるのは、対象がチューリップ、ゴルフ会員権とその時々で変化するだけである。今年のクラッシュした投機の対象は天然ガスだ。米ヘッジファンドのアマランス・アドバイザーズは、1週間で60億ドル損して潰れた。

全員が売りに出たら、もはや損切りはできない

 「買い手が誰も現れなくなった瞬間」とは、言い換えれば全員が売り手になった時だ。そうなれば、当然、売りたくても売れない。少々の損で、損切りなどできなくなるのだ。だから価格調整とは言わず、クラッシュになる。

 だからクラッシュは恐ろしいのだが、全員売り手になるという現象に着目すると、「クラッシュは予想できない」と言うのは間違いで、その予兆を嗅ぎ取ることはできそうだ。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント6 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

神谷 秀樹(みたに・ひでき)
ロバーツ・ミタニLLC創業者兼マネージング・ディレクター

神谷秀樹

1953年東京都生まれ。小学校時代をタイで過ごし、75年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、住友銀行入行。ブラジル・ミナス・ジェライス連邦大学留学を経て、84年ゴールドマン・サックス証券に移籍。92年に日本人では初めて米国で投資銀行の「ミタニ&カンパニー・インク」を設立、95年に「ロバーツ・ミタニLLC」に社名変更。米国在住。著書に『ニューヨーク流たった5人の「大きな会社」』『さらば、強欲資本主義』(いずれも亜紀書房)『強欲資本主義 ウォール街の自爆(文春新書)、共著に『世界経済はこう変わる』(光文社新書)がある。これまでに大阪府海外アドバイザー、フランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院客員教授などを兼務。

(写真:丸本 孝彦)

ロバーツ・ミタニLLCのサイトはこちら



このコラムについて

神谷秀樹の「日米企業往来」

日米の巨大金融機関で勤務した後に、顧客と投資家と投資銀行家の3者の利害が一致する投資銀行を実現したいと一人で投資銀行を設立した筆者。日米の企業風土や人生の価値観などを指摘する。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン