「ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」」

(10)ブックオフの礎を作った「2号店の奇跡」

バックナンバー

2007年1月31日(水)

1/3ページ

印刷ページ

第9回から読む

 年が明けると、店はもうこの商店街から無くなってしまうんだ。

 年末、坂本(当時ブックオフ社長、現会長)から2号店の閉店を言い渡された私は、落ち着かぬまま元旦を迎えました。

 ところがその夜、スタッフの1人から電話があったのです。「23万円売れました!」と得意気な声で「明日も頑張るから安心して休んでいいですよ」と言ってくれました。年始のお客様を接待しながらうれしさがこみ上げてきました。

 予定通り正月3が日はしっかり休み、1月4日の朝、私は店に出ました。

 あれ、何か違う。

スタッフが化け、店が変わった

 はっきりと、今までとは変わっているのです。目を凝らすと、棚に天井までぎっしり、新しい本が並んでいます。たとえば漫画のセットが増えているのです。これまでは全20巻が途中で切れていても、そのまま放置してありました。それが全巻きちんとしたセットになり、いくつも並んでいます。棚に並ぶ商品が年末からかなり入れ変わっていたので、店内の彩りが違って見えました。倉庫を見ると、段ボールがぐんと減っていました。

 スタッフの顔つきも変わっていました。目が真剣なのです。年末までとは比べ物にならないスピードで本を磨き、補充のために走り回ります。いらっしゃいませの声も、格段に大きくなりました。本を持ってきてくださったお客様がいれば、すぐドアの外まで走って取りに行き、レジでは大急ぎで電卓をたたいています。「引き取ってくれないか」と電話があれば、「はい、今日の夜でもいいですか」。タバコを吹かしながら「来週っすね」と言っていた彼は、何処へ行ってしまったのか。

 元旦の売り上げは23万円。2日、3日も20万円台に乗せていました。夢のような快挙です。

 閉店のニュース、そして私が泣いていたと耳にしたアルバイトの男の子たちは、にわかに一致団結したのでした。僕らの店は、死んでいる。じゃあどうすれば生き返るのか。

 買い取りには急いで行こう。買い取ってきた在庫は、すぐに段ボールから棚へ出そう。セットの本があればなるべく残りを探して全巻揃いにしよう。するとお年玉を持った子供達が、商店街で唯一元旦から営業しているブックオフにやってきたんですね。

「あ、三国志が揃ってる。お母さん、お年玉で買っていい?」それで横山光輝作の全60巻が売れた。自分が買い取って、走り回って全巻揃えたセットが、売れたらうれしいんですよ。じゃあどうすればもっと売れるのか、考え始めるんです。こうなればしめたもの。

 基本動作の「ところてん」がしっかり形作られたのも、この「2号店の奇跡」の最中でした。棚に何冊か同じ本が溜まったら、すぐに100円のコーナーに移そう。いつまでも滞留している本が棚の同じ場所にあると、そこだけ棚が薄汚れて見える。買い取って、加工して補充して、棚からさらに100円コーナーへ。後ろから押し出すようなこの商品の移動のことを、私は「ところてん」と呼び始めました。

 ところてんをきちんきちんと行うと、なるほど商品の回転が速くなる。このことに気づいた2号店の若者たちは、その後、率先して他店にところてんの効用を説く役になってくれました。

 さて私にも、猛省を迫られた出来事がありました。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント12 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

長田美穂(ながた・みほ)

ジャーナリスト 1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本経済新聞記者を経て1999年よりフリーに。消費社会、性と社会問題をテーマに執筆。著書に『ヒット力』(日経BP社)『問題少女 生と死のボーターラインを揺れた』(PHP研究所)など。 



このコラムについて

ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」

“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。にもかかわらず、ブックオフだけが勝ち残ってきた理由は、現場(店頭)にある。

 この連載では、ブックオフの強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろす。同社の「育ての母」の生の声を存分にお聞きいただきたい。インタビューと構成は日経トレンディなどで活躍中のライター、長田美穂氏、写真は鈴木愛子氏が担当する。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内