(第12回から読む)
私が心底、人の育成の必要性に目覚めたのは、八王子堀之内店の店長を務めた時でした。「現場の母」から次の段階に私自身が脱皮したのは、この店で積んだ経験のおかげです。
それにしてもあの店での体験は、辛かった。
私は、スタッフから「ボイコット」という“攻撃”を受けたのです。
京王線堀之内駅から徒歩5分ほどの住宅街の一角という、大型店の立地としては決してよくない場所にあります。ブックオフとしては初めての2フロアに展開する店で、店舗面積は170坪。開店は1997年5月。
毎月毎月赤字を垂れ流す不採算店でした。店の運営刷新をしてこいと坂本に派遣されたのです。
ブックオフでは店の生産性をスタッフ1人が1時間に売り上げる金額で計ります。理想は5000円台なのですが、この店は2800円くらいまで下がっていました。
行くとすぐ、これは不採算店になるわけだ、と思いました。
たとえばトイレのゴミ箱に入れる袋に、お客様に商品をお持ち帰りいただくのに使う、店のロゴ入りの袋を使っている。原価計算すると1枚何円という店の備品を、1円でも節約したいほどの危機的状況にある時にどうして使えるのか。スタッフさんのシフトの組み方も滅茶苦茶でした。希望をすべてそのまま受け入れているので、人の余る時と足りない時が、不均衡なのです。倉庫にはお客様から買い取った在庫が、天井まで段ボールに積まれたまま。
「心地よいぬるま湯」から出たくない!
仲良し集団になっていたのでした。前任の店長は、入社2年目か3年目、23〜24歳の女性店員です。彼女を囲んでアルバイトの男子学生やパート主婦が、心地よいぬるま湯のようなグループを作っていました。
ブックオフ社長 橋本真由美氏 (写真:鈴木 愛子)
ボイコット事件が勃発したのは、赴任して1カ月ほど後でした。
12月のクリスマス、年末年始と1年で最も忙しい時期、アルバイト学生が一斉に店に来なくなったのです。
スタッフは全員で20人、うち7人ほどの中心的スタッフだった男子バイトがごっそりいなくなりました。前の若い店長が札幌に転勤になったので、彼女を慕い、冬休みを使って札幌へ行ってしまったのです。残ったのは、主婦パートと2人だけ、こう言ってはなんですが、あまり頼りにならないバイトさんでした。おまけに主婦はクリスマスや年末年始は、シフトに入れない。
はて、どうしたらいいのか。途方に暮れました。
男の子たちに私への反発があるのは分かっていました。仲良しサークルで暢気にやってきたところへ、49歳のオバサンがいきなり「業務改善」とか言って、乗り込んできた。面白くないはずです。
が、とにかく店を回さなきゃ。とその2人と私が中心になり、本部にも人の派遣の応援を頼んで店に入りました。
これまでと同じ動きでは、店は回せない。まず変えたのは、買い取り時の動作でした。
お客様が本を持っていらっしゃり、スタッフが査定をした後、申込書に記入していただきます。その間、スタッフはじっと立っているだけでした。これを変えました。
査定終了後、お客様にスタッフが「こちらでよろしいでしょうか」と聞きます。「はい」とうなずかれたら、横のもう1人がさっと持ち運ぶ。ピカピカの本ならその場で値付けし、少し汚れていたら研磨機にかける。
「ではこちら1500円になります、ありがとうございます」とレジ担当が言う時にはもうその本は棚に並んでいる。ここまでスピードアップを図ったのです。2人1組でお客様の反応に耳をそばだて、連携プレーで素早く「出し切り」する方法を、編み出したのです。こうすると今入ったばかりの一番新鮮な本が棚に並ぶ。当然、買いにおいでになるお客様の反応もよくなります。
クリスマス、正月三が日を汗だくになって何とか乗り切りました。頼りないと思っていた2人は、別人の働きを見せました。
ボイコットした学生たちは、冬休みが終わるといつまでも札幌にいるわけにいかずに帰ってきました。涼しい顔をして。
腹は立ちました。正直なところ、煮えくり返っていました。
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