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恐怖と孤独と悲しみがもたらす成長

2007年3月15日(木)

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 5歳の頃、僕が間違って母親の大事な鶏を窒息死させたことがあります。

 「大変なことをしてしまった」

 それは大好きな母に対して申し訳ないという気持ちというよりは、とてつもない恐怖感に見舞われました。この状況から脱するために何とかしたい、とあれこれ考えても、幼い頭でうまい答えを見つけられるはずもなく、絶望感から「この世も終わり」と打ちひしがれていました。

 そんな僕の姿を見ていた兄は、しばらくすると、少し落ち着きを取り戻した僕を連れて死なせてしまった鶏を持って、近くの川まで出かけました。そこで兄はなんと鶏を解体し始めたのです。

 「え、なんていうことをするの!」

 僕は一瞬、面食らいました。その一方で、体の中はどんな様子になっているのかと、好奇心で見ていました。やはり見なければよかった、と思ったのは、兄の言葉を聞いてからでした。

 その鶏は雌鳥でおなかの中には、たくさんの小さな卵を抱えていました。兄はそれを指して、「生きていれば、これだけでなく、もっとたくさんの卵を産むはずだったのだよ」としゃべりました。それを聞いて、僕は突然、急に深い谷底に落とされたような感覚に襲われました。

初めての体験

 あの時、なぜだか分かりませんが、兄がすぐ側にいるのですが、兄には助けを求めたくないという気分でした。大人になってから、あの時の感覚は何だったのか考えてみた自分なりの結論は、「恐怖から味わう孤独感と悲しみを、初めて味わわされた瞬間だった」ということでした。

 川に連れて行ってくれた兄は長男で、40代の時にガンで亡くなりました。生きていれば62歳になります。僕とは年が10歳以上はなれていることもあってか、とてもかわいがってくれました。今は兄さんの分まで生きなくてはならない、と自分に言い聞かせていますが、あの時はなぜだか兄さんを避けたかったのです。

 大きな失敗をしでかしてしまった時に最初に感じるのは、恐怖ではないでしょうか。信じたくない現実が、猛獣のように突然に襲いかかってくるようなもので、そこでは怯えるしかありません。その後にやってくるのは、孤独です。泣いても叫んでも起きたことを誰も変えることはできず、自分以外にその責任を取ることはできないことを痛感するからです。その孤独感は悲しみ以外の何ものでもありません。

 僕には20年以上にわたって悩まされる悪夢があります。自分だけが大学受験に落第した夢です。大学受験は日本でも後の自分の人生を左右するような大きなイベントですが、僕が生活した時代の中国は、恐らく日本よりも大学受験は重みがありました。当時は、人生の選択肢があまりなく、例えば貧乏な田舎から脱出する唯一の方法は大学に受かることぐらいしかなかったからです。

 こんな状況でしたから、当時の僕にとっては、大学受験に失敗することは「人生の終わり」「この世の終わり」に近い衝撃なのです。そのような状況でしたから、北海道大学で博士号をいただいた時は、「これで試験に悩む人生から、サヨナラできる」と両手を上げて喜びました。しかし、その喜びも束の間でした。

忌避するのではなく、歓迎する

 学校の試験がなくなった代わりに、社会に出ると、いつ始まるかが分からない、いつ成績が発表されるかが分からない試験がたくさんあることに気づいたからです。それからは「恐怖」「孤独」「悲しみ」の3連鎖が、いつやってくるのか分からないこと自体が大きな恐怖になりました。

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