「諸君、入社おめでとうございます」
入社式でよく言われる挨拶ですが、なぜでしょうか。16年前、僕も入社式で同じことを言われました。しかし、なんと3カ月後にその会社は倒産してしまいました。
潰れる会社への入社
1990年、北海道大学で博士課程を修了した僕は帰国する予定でしたが、運命から日本の会社に入社しました。社員は200人ほどの中小企業でした。知人の紹介で社長と知り合い、親切な人柄と熱意にひかれて、その会社に入社を決心しました。教授が紹介してくれた大手企業を断る時、教授からこう言われました。
「君が探した会社はいつ潰れるか分からないぞ」
入社式の後、新入社員の教育を受ける際、博士号を取って28歳にもなった僕は、専門学校を卒業した大半の他の新入社員と全く同じ扱いを受けました。「同級生」の彼らに僕は「国立大学の博士号も持っているあなたが、なぜこんな会社に入るの」「何か特別な狙いがあるのか」と聞かれました。
この時、彼らは良い会社に行けないから、仕方なくこの会社に入ったことに気づきました。急に社長や幹部たちから聞かされる「おめでとう」や「1日も早く、先輩に近づくように努力してほしい」という言葉が空しく聞こえてきました。
3カ月後のある日、社長がやつれた顔で僕にこう言ってきました。「宋さん、申し訳ない。不渡りを出しました」。ビジネス用語を知らない僕は、不渡りをてっきり「渡り鳥が飛んで来ない」と勘違いしてしまったのですが、事態を把握するのに時間を要しませんでした。呆然と社長の顔を見ていると、なぜか入社式の際に彼が述べた「諸君、入社、おめでどうございます」という挨拶が耳元に響きました。
従属関係の刷り込み
僕の入社は結果的に、めでたいものではありませんでした。ですが、入社は元々めでたいものでも何でもないと感じていたので、社長を非難する気になりませんでした。むしろ夜逃げしなければならない社長とそのご家族のことが気がかりでした。会社が倒産してしまったこともあり、僕は生活のため、北大時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、それで得た資金を元手にして、92年にソフトブレーンを創業しました。
入社早々、こうした経験をしたこともあり、それ以来、僕は常に経営者の立場から日本企業の入社式と新人教育を見てきました。すると、入社式は「同質従属型」の人間を作る最初の儀式と思えるようになりました。
会社の大小、良し悪しに関係なく、社長が新人に「おめでとうございます」と語るのは、会社もしくはそこの経営者の立場が上で社員は下にあり、社員は主である会社ないし経営者に従う立場にある、ということを示していることになります。その言葉を素直に受け入れる新入社員も新入社員で、これから社会の荒海に自分の小船を漕ぎ出す時に、直面する困難を自ら乗り越えていく心構えを持つことを放棄しているように思えます。
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