「ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」」

(19)「格闘本部」で泣いた、店長と私

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2007年4月11日(水)

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【お知らせ】この連載をまとめた単行本『お母さん社長が行く!』が発売されます。


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 上場したからって浮かれるな。延びきったゴムのような会社になるぞ−−。

 果たして、坂本のその言葉は現実と化したのでした。

 2004年3月に上場し、夏がすぎ、秋になると既存店の数字に危うさが現れました。ついに10月には、全国ベースでは売上前年同月比を超えていても、重要な店のいくつかに、前年割れが出たのです。

「甘いよ!」と、研修旅行直前でUターン

 11月に既存店売上高の前年同月比がプラスであれば、18ヶ月連続となります。しかしその年の11月は前年より2日、休日が少なかった。休日と平日の売上は、1.3倍から2倍も違います。

 それでも1年半以上もプラスを記録し続けていたため、馴れが生じていたのでしょう。なんとかクリアできるだろう。私はそう思っていたのです。

 11月10日朝7時。オープン直後の川崎の店の朝礼に顔を出そうと、車に乗りこもうとした矢先でした。携帯電話が鳴りました。坂本でした。

 「前年同月比が今月、厳しいらしいな。どうなんだ」
 「はい、昨日までにそれぞれのエリアマネージャーが仕入れのためのチラシの手配や、商品の移動など、手を打っています」

 ああそうか、分かった、と言ってもらえるものだと思っていました。

 「甘いよ、おばさん!前年同月比を5%以上割っているマネージャーは、まさかバルセロナ行きに入っていないだろうな。すぐストップをかけろ!」

 ブックオフでは全社員を4グループに分けてバルセロナへの研修旅行を実施していました。その日は第2団の出発日でした。坂本も参加するため、成田へ向かう道中から電話をかけてきたのでした。

 その時点で担当エリアが前年同月比90%前後しか取れていないエリアのマネージャーは、参加者の中に7人いました。もう家は出ているでしょう。1人ずつ電話をかけ、急遽中止を通告せざるを得ません。「わかりました、すぐ戻ります」。成田エクスプレスの車中、彼らは小声で答えました。成田の集合場所で事情を話すと、「出発組」が「自分も行くべきではないので戻ります」と言い出し、「戻り組」は、「研修を成功させるために行ってくれ」と押し問答し、それはなんとか説得して、チェックインゲートを挟み、「出発組」と「戻り組」は、涙で別れました。

 送り出したと思ったエリアマネージャーが戻ってきた。当該地域の店長は、青くなりました。本社にも、緊迫した空気が走りました。

赤ハチマキで突破宣言

 「すぐさま本社内に横断幕を掲げろ」

 坂本からは国際電話がひっきりなしに入ります。

 「04年11月度 前年同月比突破格闘本部」

 本部長は私、橋本真由美。以下、副本部長に執行役員、商品センター代表、事務局は企業戦略室。全員、頭に赤ハチマキ装着が義務でした。

ブックオフ社長 橋本真由美氏

ブックオフ社長 橋本真由美氏 (写真:鈴木 愛子)

 来社したお客様は、「ストですか」と驚愕します。
 こういう時、ブックオフの団結力はすごいのです。総力戦です。役員もシフトを組んで、店に入ります。日頃は現場から離れている人間が店に来ても、かえって足手まといなはず。それでもセールの呼び込みをしたり、段ボールを運んだりして、スタッフさんたちと危機感を共有しようとしました。

 中でも猪突猛進型である私は、頭に血がのぼり切っていました。この「格闘本部」で1つ、また、現場とやりあってしまいました。

 バルセロナ行きをストップさせられたエリアマネージャーの中に、そのエリアの足を大きく引っ張る問題店を抱えてた人がいました。スタッフさんとの意志疎通ができていないし、時間感覚にもルーズ、店舗運営全体に甘えのみられる店長がいたのです。

 私もかねて気になっていた人でした。問題の店長に、「スタッフさんとうまくいっているの?」と声をかけると、彼は言うのです。

 「はい、うまくいっています。自分が遅刻した時、『大丈夫?』と心配してくれます」

 なんと情けない返事か。この人には店長は無理だ−−。こう思っていた私は、エリアマネージャーにその旨を幾度となく言い、彼を外せとせっついてきました。そしてこの危機的状況を機に、ついに、彼の異動を決めたのです。

 異動を言い渡すと、エリアマネージャーと当の店長が本社へ飛んでやってきました。店長は「もう一度チャンスが欲しい」と涙を流して私に言いました。

 私は、厳然と突き放したのです。

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著者プロフィール

長田美穂(ながた・みほ)

ジャーナリスト 1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、日本経済新聞記者を経て1999年よりフリーに。消費社会、性と社会問題をテーマに執筆。著書に『ヒット力』(日経BP社)『問題少女 生と死のボーターラインを揺れた』(PHP研究所)など。 



このコラムについて

ブックオフ社長橋本真由美の「最強の現場の創り方」

“ビジネスモデル”で考えると、ブックオフの仕組みは恐ろしいほど単純だ。にもかかわらず、ブックオフだけが勝ち残ってきた理由は、現場(店頭)にある。

 この連載では、ブックオフの強力な現場が作り出されるまでの経緯を、1号店の現場からたたき上げて社長に就任した橋本真由美氏が語り下ろす。同社の「育ての母」の生の声を存分にお聞きいただきたい。インタビューと構成は日経トレンディなどで活躍中のライター、長田美穂氏、写真は鈴木愛子氏が担当する。

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