4月23日に、セブン&アイ・ ホールディングスの「nanaco(ナナコ)」、そして27日にイオングループの「WAON(ワオン)」という2つの流通系電子マネーサービスが開始された。
これまでは、2000万枚に上る発行枚数を擁する「Suica(スイカ)」を中心とした交通系と、「edy(エディ)」を搭載したおサイフケータイが、電子マネーサービスの広がりをリードしてきた。交通系およびケータイでの電子マネーは、主として小銭を持たずに済む、あるいは切符を買わずに電車に乗れるという「面倒を省く」メリットによって普及してきている。
この延長線上で考えると、流通系の電子マネーの登場は「また新しい似たようなのが出てくるのか」というふうに捉えられがちだ。しかしながら、これはユーザーと発行者の双方に電子マネーの新しい意味をもたらすものであり、次のステージの開幕を告げる出来事だと考えられる。
流通系電子マネーは、「面倒を省く」だけでなく、新しいメリットとして「お得感」を強く訴求している。その手段は「ポイント制」と「割引キャンペーン」だ。実際、nanacoもWAONも、ショッピング額に応じたポイント制が組み込まれている。さらにWAONの場合、毎月10日の「WAONデー」には、買い物の際に5%の割引が受けられるとしている。
これまでも、様々なポイントプログラムと提携し、「たまったポイントを電子マネーに交換できる」という間接的なサービスは提供されてきた。しかし、nanacoとWAONは発行主体自体が小売業なので、電子マネーとポイント制や割引キャンペーンが直接結びつき、不可分な関係となる。これは初めてのことだ。
顧客の「ID付き購買情報」が入手可能に
消費者にとっての追加メリットが「お得感」だとすると、小売り側にとってのメリットは何か。そのメリットは、お得感を提供するコストを上回るものなのだろうか。
電子マネーの利用が増えれば、小売店舗で小銭を取り扱う手間とコストが省けるというメリットがある。だが小売り側にとっての最大のメリットは、顧客の「ID付き購買情報」を入手できることだろう。
コンビニエンスストアから展開されるnanaco、総合スーパーやショッピングセンター中心に展開が始まるWAON。メーンターゲットはそれぞれ異なるが、いずれの場合も電子マネーを申し込む時点で、顧客は住所・氏名・年齢・性別といった個人情報を提供することになる。電子マネーは、個々人にいわば「ID」を付与する形で発行されるのだ。
従来のPOS(販売時点情報管理)レジ端末でのユーザー情報入力では、顧客が2回買い物をしても、その買い物が別の店で行われると同一人物かどうかを特定できなかった。しかし今後、nanacoやWAONを使って電子マネーで支払ってもらえば、「どこで、どういう顧客が、どういう買い物をしたのか」という情報が得られることになる。
私はポイント制にあまりメリットを感じません。少なからぬポイントカードに有効期限があり、それまでに利用しなければ…という強迫観念に陥るか期限切れで無効になるか、という無駄なものに個人情報を提供するだけ損だと判っていない消費者の方が多いように感じます。ポイント発行システムの構築コストがあるのなら、同額相当の値引きだけすれば、ポイント以上に顧客満足度は向上するとも考えます。●新規に構築する電子マネーは、デポジットされた側の利息が丸儲けという本質を見抜かないと議論がずれるのではないでしょうか。JRの「預かり金500円」のカードが、発行100万枚で5億円。解約されるまでは返金不要、イコール貯金すれば利子はJRのモノです。定期券の人は最低でも1年、非定期券ならば事実上一生モノの可能性もあります。利子どころか元本すらJRのモノになってしまう可能性も多々あるのです。(2007/05/10)