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日本企業に蔓延する「分析まひ症候群」
傍観者はリーダーではない

野中 郁次郎

2007年5月22日(火)

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美しい分析や整然としたプレゼンテーションを重視するあまり、現場に出ない傍観者が意思決定権を握る異常な事態に陥っている。
野中郁次郎氏はそんな「分析まひ症候群」に侵された日本企業を憂慮する。
創造は全人格を懸けた事業であり、分析からイノベーションは生まれない。
暗黙知を継承し、共通善に基づいて現実的な判断を下せる真のリーダーと、21世紀の経営を律する「理想主義的リアリズム」のあるべき姿を語り尽くす。

野中 郁次郎氏

野中 郁次郎(のなか・いくじろう)
早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、米カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて博士号取得。南山大学経営学部、防衛大学校、北陸先端科学技術大学院大学教授を経て現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科名誉教授。『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社)、『戦略の本質』(共著、日本経済新聞社)など著書多数 (写真:村田 和聡)


 経営は主観的で経験がものを言うアートなのか、あるいは分析的で数値で測れるサイエンスなのか。単純な二者択一では語れないでしょう。若い頃は「マネジメントはサイエンスである」と主張していたんです。言語化できないものがアートである以上、長嶋茂雄さんの打撃論を他人がいくら聞いても理解できないように、人間の集団を1つの方向に束ねていく経営がアートであってはならないと。

 ところが、最近はむしろ反対の意見を主張するようになりました。サイエンスの部分が強くなりすぎて、アートを切り離していった反動で、経営が現場から乖離して傍観者になっていく。悪貨が良貨を駆逐する現象が、まさに日本企業の現場で起きている。

 米国流の成果主義を導入し、情緒的な人事評価を排して合理主義に移行したはずの日本企業は今、リーダーの不在に苦しんでいます。その理由は、一見もっともらしいビューティフルなパワーポイントの分析に頼り、現場の現実を感じ取る能力を軽視する「分析まひ症候群」にある。そんな気がしてならないのです。

 イノベーションの本質は、人間が自分の主体的な思いを貫いて実現するために、全人格を懸けてあらゆる障害を越えていく、そんな全人的なコミットメントにあるのではないでしょうか。いくらきれいな資料を作って見事な分析をやったところで、だから何なんだ、何をやりたいんだ。こう申し上げたいんですね。

イノベーションは全人格の結晶
見事な分析から創造は生まれない

 私はこの数年間、「知識創造理論」を発信し続けています。人間の知は2つの側面を持っている。1つは言語で表現できる分析的な「形式知」です。IT(情報技術)が得意なのは形式知に属する知と言っていい。もう1つは主観的で経験的な「暗黙知」にほかなりません。経験は簡単に言葉で伝えたり、説明したりすることはできません。イノベーションを生む組織は、形式知と暗黙知がダイナミックなスパイラル運動を繰り返し、組織の中で知を増幅していく機能を持っている。最近の日本企業は、このバランスを崩してしまったのではないか。そう危惧されてならないのです。

知識創造は暗黙知と形式知の相互変換運動である

 経営コンサルタント出身のルイス・ガースナー氏が米IBMの会長兼CEO(最高経営責任者)に就任した際に、最初にやった改革は、IBMに蔓延している「プレゼンテーション文化」に終止符を打つことでした。オーバーヘッドプロジェクターのスイッチを切り、「生きた現実を直視してもっと本質的な議論を始めよう」と周囲を巻き込んでいったのです。もともと暗黙知の継承に長けていた日本企業が形式知に走り、IBMが暗黙知の重視に回帰する。残念でなりません。

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