「常盤文克の「新・日本型経営を探る」」

もう技術だけではイノベーションを起こせない

決め手は新しい発想と「コトづくり」

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2007年6月12日(火)

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 前回は、イノベーション(革新)を起こすためには、物事をマクロな視点から大きく捉えて見る統体的な、包括的な思考が重要であるとお話ししました。今回はそこから焦点を絞って、企業におけるイノベーションについて考えてみましょう。

 企業におけるイノベーションと言えば、まず技術革新と経営革新の2つが思い浮かびます。作れば売れる高度成長の時代、いわば「量の時代」は、いかに効率よく低コストで質の高いモノを作るかが目標でした。そこで重要な意味を持っていたのが、新製品の開発や生産の効率化、コストダウンなど、すべて技術が絡む革新でした。つまり、イノベーションと言えば、それは技術革新のことだったのです。

 それが今世紀になると、もはや新しい技術だけではイノベーションと呼べなくなってきました。情報や通信、市場環境や顧客の動向など、技術の周辺にある様々なほかの要素と技術とを組み合わせることが、極めて重要になってきたのです。
 
 例えば、年を追って進化する最近の携帯電話です。携帯電話は今や、いつでもどこでも会話できる通信機器、という当初の目的をはるかに超えています。電子メールの送受信や画像のやり取り、チケットの予約、さらには電子決済のような機能やサービスが結びついてきたからです。だからこそ、インターネット接続機能や非接触ICチップなどの技術が搭載され、社会の仕組みや日常の生活を大きく変えるほどの目覚ましいイノベーションが起きたのです。このように技術+α(プラスアルファ)の発想から起きるのが、21世紀型のイノベーションと言えます。

 こうした社会や生活を変えるようなイノベーションを生み出すには、技術者が自分たちの殻に閉じこもり、井の中の蛙になっていてはいけません。むしろ自ら積極的に外へ出て、今までは関わりがなかったような異質なもの、人や情報に接することが大事になります。そこで新しい何かを感じ取り、それをいかに技術と結びつけるかが、決め手となります。

「コトづくり」がイノベーションを生む

 もうひとつ重要なのが人の心の問題です。人はおカネだけでは満たされません。夢や熱意、使命感といった前向きな気持ちがあると、奮い立って思わぬ大きな力を発揮します。そこで、企業においては社員のやる気を奮い起こし、仕事にやり甲斐を感じさせる職場環境をつくることが重要になってきます。
 
 それが以前もお話しした「コトづくり」なのです。コトとは、大きな夢や熱い思い、そしてその実現に向かって社員たちを奮い立たせる仕組み、シカケの詰まっている「創湧の容れもの」です。人の心を燃え上がらせるコトがないと、いい技術も生まれませんし、せっかくの技術があっても育ちません。
 
 政府は科学技術の研究費に兆円単位の額を投じると言っていますが、十分なコトづくりがないままでは、投資に見合う成果は期待できないでしょう。「カネ」の投資だけでなく、研究者を奮い立たせる「こころ」への投資も忘れてはなりません。技術とイノベーションとの「架け橋」となるコトづくりの議論をしないと、真の意味での技術革新は起きないのです。

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著者プロフィール

常盤 文克(ときわ・ふみかつ)

元・花王会長
1957年東京理科大学卒業、花王入社。スタンフォード大学留学後、大阪大学にて理学博士。花王で研究所長などを経て、76年取締役。90〜97年まで社長、2000年まで会長。現在は企業の社外取締役、アドバイザリーボードメンバーなど幅広く活躍。著書に『モノづくりのこころ』(日経BP社)、『コトづくりのちから』(同)、『ヒトづくりのおもみ』(同)、『反経営学の経営』(共著、東洋経済新報社)、『いま・ここ経営論』(共著、同)など多数。

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