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もはや「王」ではなくなった経営者

2007年6月15日(金)

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 過去、経営者は「王のごとし」であった。多くの場合、前王から指名を受け即位すれば、大いなる権限をもとに、自らの領国(=会社)の方向性を決め、それに向けて、国民(=社員)を引っ張っていくことができた。もちろん、他国(=競争相手)との争いは絶えず、内部にも不満分子は存在したから、苦労に絶え間はなかったが、あくまで自らの主は、自分自身であった。

 しかし今、王の「力」は、低下し続けている。第1に、「国の所有権は本来自分に存在する」と、株主が声高に主張し始めた。あたかも、中世ヨーロッパ諸国に対して、お飾りだと思っていた神聖ローマ皇帝が、領土の所有権や王の任免権を振りかざし始めたかのようだ。

 ペンタックスの例を見るまでもなく、企業内部の論理で策定された経営方針が株主によって覆されるということが、実際に起こり始めた。経営側からの株主総会での議案に対しても、毎年のように反対票の割合が増え続けている。

 一方、経営者がIR(投資家向け広報)や資本政策に使う時間は、ほんの10年ほど前と比べると、驚くほど増えた。「力」の上がった相手とどのようにつき合っていくのか。彼らとの外交に相当の時間を使わなければならなくなったわけだ。

 第2に、「国家経営には、守るべきルールがある。ルールを遵守できなければ、厳罰に処す」と規制が強化され始めた。「国民の利益のため」という大義名分を掲げて、力を失い続けていた官僚たちが復権してきたかのように。

 厳しく製造者責任を問うPL(製造物責任)関連の法規制、あるいは、金融商品の販売時のコンプライアンス強化を求める諸規制。日本版SOX法もそうかもしれない。いずれも、日本の官僚システムが、産業政策・事前調整型から、消費者保護政策・事後罰則型へシフトする大きな流れに沿ったものだ。従来型の箸の上げ下ろしに口を出す介入ではないが、結果として、規制が経営者を縛る力は、どんどん高まっている。

 経営者の「絶対王政」は終わりを告げ、彼らの相対的な「力」は、大きく低下している。今では経営者は、王ではなく、オーナーの圧力と、選手獲得方法やアンチドーピングへの規制強化に翻弄される、プロスポーツの監督に例えた方がいいかもしれない。

日本の経営者の「つらさ」

 もちろん、こういった経営者に対する逆風は、先進国に共通するものだ。ただ、株主の影響力アップと企業に対する規制・監視の強化の両方が、同時かつ急速に進んでいるという点で、日本の経営者は特につらい立場にある。

 M&A(企業の合併・買収)、LBO(レバレッジド・バイアウト)の嵐が米国を吹き荒れたのは、1980年代後半からだった。時間をかけて、米国の経営者は、ファンドやもの言う株主とのつき合い方を学び、また株主を味方につけながら、M&Aを戦略の1つとして使いこなすことも覚えた。この「第1の相対力低下ステージ」を過ぎた後、エンロン事件やその後のSOX法(企業改革法)制定といった「規制の復権ステージ」がやってきたわけだ。日本では、どちらも本当に進み始めたのはここ数年であり、両方が同時進行している。

 また、ファンドや規制当局といった各プレーヤーは、米国を中心とした先行事例を踏まえて、日本の変革に臨んできているため、その動きは素早く、効果的だ。結果として、現在の日本の経営者へのプレッシャーは、他の先進国より一層高く感じられるようになっている。

 米国の大部分の経営者と比較すると、日本の経営者は、その権力の強さ(例えば人事権)や与えられる見返り(特に金銭的報酬)のレベルが相当低い。その中で、相対的な「力」が低下し、企業経営の複雑度は増していく一方なのだから、今、日本で経営者を務めるというのは、結構つらいものがある。

目ざとい若者たち

 こういった「力」の所在のシフトに対して、キャリアを考える若者たちは敏感だ。まずは、トップクラスの学生の企業離れである。米国の場合、90年代から経営者の相対的な「力」ダウンが目立つようになるにつれ、優秀な学生がどんどん大企業でトップを目指すキャリアではなく、投資銀行やコンサルタントといったプロフェッショナルの道を目指すようになった。

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「もはや「王」ではなくなった経営者」の著者

御立 尚資

御立 尚資(みたち・たかし)

BCGシニア・パートナー

京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士。日本航空を経て現在に至る。事業戦略、グループ経営、M&Aなどの戦略策定・実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを手がける。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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