「イノベーション解剖学」

イノベーションには「情熱の循環」が必要だ

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2007年7月9日(月)

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 メドトロニックという、心臓ペースメーカーなどの体内埋め込み型の医療機器を作る会社がある。120カ国に約3万人の社員を擁するグローバル企業であり、新製品開発を軸に20年間にわたって連続10%以上の成長を続けている。

 同社には、「メドトロニックの製品がいかにあなたの人生を変えたか」について、患者に実際の物語を語ってもらう社員全員参加の年次大会がある。そこでは、患者の数だけ奇跡の物語が語られる。この時、どんなに冷静な社員でも思わず目に涙が浮かび、体の中にジーンと電流が走るような感覚になるという。自らの仕事の価値を感じる決定的瞬間である。

 またメドトロニックの営業マンは医師の許可を得て、医師の手術現場にも立ち会う。そこで営業マンは同社の体内医療機器が患者の命を救う瞬間を目の当たりにするのだが、この時なんとも言えない「誇り」と「驚き」が入り混じったような気持ちになるという。

 メドトロニックのように、働くことに対する情熱を、「顧客の真実の物語」や「現場・現実の体験」のカタチで組織に還流させるやり方は、理念などの抽象的な言葉で伝えるよりも圧倒的に強い力がある。社員は体ごと感動し、「患者の生活に奇跡を起こしたい」という情熱が組織に伝播し、心のこもったイノベーションを引き起こす。

 メドトロニックを訪ねてみて分かったが、この会社は常識を覆すスピードで新製品の治験準備作業をやってのける。メドトロニックの経営は、自らの存在意義や仕事の社会的意味を組織に伝播する「ミッション経営」の一種であるが、本物のミッション経営とは、決して生ぬるい慈善主義や自己満足などではなく、一刻も早くイノベーションを完遂して患者に届けなくてはならない、といった志あるハードワークを引き出すものだと感じた。

小林製薬では、新製品の提案件数が年間1万5000件

 大阪の医薬品等メーカーである小林製薬は、これまでに「アンメルツ」「冷蔵庫のキムコ」「トイレのサワデー」「ブルーレット」「熱さまシート」「ナイシトール」などのヒット商品を次々と飛ばす、まさにイノベーションマシンのような企業である。

 社内からの新製品アイデアの提案件数は年間1万5000件という驚くべき数字だ。1人で年間200件以上提案する社員もいる。とにかく素晴らしいアイデアの発生・流動数である。この中から年間30商品ほどが実際に市場に投入されていく。このアイデア提案制度には、営業や商品開発部門の人たちだけでなく、総務も経理も全部署全員が参加しており、イノベーション活動がまさに全社的なDNAになっている。

 こうしたダイナミックなイノベーションが可能なのは、現場社員からのボトムアップイノベーションを強力に促進する組織文化が培われているためである。具体的には「あったらいいなをカタチにする」というコーポレートスローガンに始まり、会長・社長が公式発言で「小林の神髄はニーズ発のイノベーションにある」ことを内外に発信し続けること、加えて社長が毎月、優れたイノベーションに対してその貢献内容を称える「ホメホメメール」を送ることなどを通じて、ブレのないイノベーションファーストの文化を作り上げている。

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著者プロフィール

齊藤 義明(さいとう・よしあき)

齊藤 義明

野村総合研究所
事業革新コンサルティング部  新領域事業化コンサルティング室 室長

戦略コンサルタント。1965年北海道生まれ。88年北海道大学経済学部経営学科卒業後、野村総合研究所入社。2002年、ワシントン支店長。2005年、新領域事業化コンサルティング室長。2006年、米国アイゼンハワーフェローに選ばれ再び渡米、3カ月間で100人以上の米国キーパーソンを取材。現在、コンサルティング事業本部事業企画室長。専門は、イノベーション・マネジメント、モチベーション・マネジメント、事業開発・再生など多岐にわたる。著書に『2010年の日本』『コーポレート・アントレプレナーシップ』など



このコラムについて

イノベーション解剖学

企業の中で「イノベーション」は、いつ、どのような組織から生まれるのでしょうか。そして、イノベーションを事業として成功させるためのカギは何でしょうか。ケーススタディーを交えて、イノベーション誕生の瞬間に何が起きているのかを解き明かします。

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