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「“無尽蔵の労働力”はもはや幻想」
蔡 ファン (ツァイ・ファン)
中国社会科学院 人口労働経済研究所 所長

「2010年 日中逆転」碩学が語る(3)

  • 田原 真司

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2007年10月3日(水)

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 農村部に無尽蔵に近い人手があり、賃金は長期にわたって上がらないと言われていた中国。そんな中、労働経済学の権威である蔡所長は「余剰労働力は枯渇に近づいており、今後は賃金が上昇する」といち早く警告を発した。「ルイスの転換点」(2ページ最後の囲み参照)を迎える中国経済は、どんな変化を見せるのか。
(聞き手は北京支局 田原 真司)

 ―― 昨年頃から、「中国の労働力は過剰から不足の時代に入った」とする議論が大きな波紋を呼んでいます。蔡所長はこの問題をいち早く指摘しました。

蔡 ファン(ツァイ・ファン)氏
(ファンは日へんに方と書く)
中国社会科学院人口労働経済研究所所長。1956年9月北京市生まれ、51歳。文化大革命末期の76~78年に農村部への下放を経験した後、中国人民大学に入学し農業経済を専攻。82年同大学を卒業し、中央政府直属の研究機関である中国社会科学院の修士課程に進む。85年経済学修士号、89年経済学博士号を取得。93年から中国社会科学院研究員(教授に相当)。98年から現職。

 蔡 ファン(以下 蔡) 1980年代から最近に至るまで、中国の農村部にはおよそ1億5000万~2億人の余剰労働力があると言われ続けてきました。ところが2004年、出稼ぎ労働者の多い広東省の珠江デルタ地域で「民工荒」と呼ばれる一般労働力の不足現象が起こりました。

 この時、私はある疑問に突き当たりました。経済がこれほど急成長しているのに、余剰労働力はそんなに残っているのだろうかと。例えば、農村部の地元企業だけで1億8000万人を雇用しています。都市部への出稼ぎ労働者は1億3000万人に達しています。さらに、中国の食料生産を支えるために、農業になお1億8000万人が必要とされます。

 そこで、最も保守的な条件で独自に推計してみたところ、農村部には現在も約1億人の余剰労働力があるという結果が出ました。しかし年齢構成を見ると、40代よりも上が半分以上を占めていました。企業が求めている比較的若い労働力は、もはや豊富とは言えないのです。

 実際、人手不足は珠江デルタ地域から上海市周辺の長江デルタ地域に広がり、最近では東北部や中部地域の主要都市でも見られます。

 中国の生産年齢人口(15~59歳)は現在も増加していますが、2013年頃にはピークを迎え、緩やかな減少に転じます。農村部の余剰労働力の払底に加え、労働力全体の供給量も、もうそれほど増える余地はありません。例えば、沿海部の工場では18~20歳の女性を雇用したがる傾向がありますが、この年齢層の人口は既に減少し始めています。こうしたことから見て、労働力の供給に問題が発生していることは間違いありません。

国際競争力の比較優位は持続

 ―― 本格的な労働力不足の時代に入ったとすれば、今後は賃金が上昇し、中国の国際競争力が低下する懸念はありませんか。

  中国では長年、企業が人を採用したければいくらでも採用できると考えられてきました。しかし労働経済学で言う「ルイスの転換点」(2ページ最後の囲み参照)を迎えると、人々の考え方は変わります。今後は、労働者はよりよい賃金や福利厚生を求めるようになります。これは大きな変化です。要求に応えられない企業は、事業に必要な人手を集めることができず競争力を失うでしょう。

 とはいえ、労働力が不足し始めたと言っても、労働力の絶対量の多さは変わりありません。中国は依然として世界で最も労働力が豊富な国なのです。生産年齢人口の減少は穏やかであり、総人口に占める比率は2020年でも60%と見込まれています。これは現在の多くの先進国よりも高い水準です。

 最近の人手不足には制度的な要因もあります。農村部からの出稼ぎ労働者は、都市部で自由に仕事を探すことはできますが、医療や子供の教育など社会保障や公共サービスの多くを受けることができません。ですから、若くて元気なうちに稼げるだけ稼いで、40代になったら故郷に戻ろうと考えます。このような制度的な要因を取り除けば、40代以上の経験豊富な労働力の供給を増やすことができます。

 また、中国の賃金が今の2~3倍になったとしても、まだ米国や日本の数分の1の水準です。仮に賃金上昇が続いても、国際的に見れば安いという比較優位は相当長く維持できると思います。

 この先も中国の人口は巨大です。中国人の収入が増えれば、国内消費が伸びていきます。外資系企業にとって安価な労働力の確保は大切ですが、中国の市場を押さえることはさらに重要かもしれません。

人民元の大幅な切り上げは不要

 ―― 中国政府は雇用吸収力の大きい労働集約型の輸出産業を保護するため、人民元の対ドルレートを低めに維持してきました。完全雇用に近づけば、人民元切り上げのペースを速めることもできるのでは。

  人民元が急激に切り上がると、輸出産業が打撃を受けるのは間違いありません。それは雇用問題にも悪影響を及ぼし、社会の安定を損ないます。しかし中国経済が引き続き成長し、労働生産性が向上するのに伴い、緩やかな人民元切り上げは受け入れられるでしょう。

 中国の膨大な貿易黒字は欧米や日本から批判を受けていますが、急速な黒字拡大の背景には2つの「テコ」があります。1つ目は安い人民元。2つ目は安価な労働力です。

 人民元の為替レートは、「中国政府が人為的に操作している」と諸外国から批判されています。確かに一理はあるとは思いますが、その意味ではドルや円も「安すぎる」「高すぎる」と常に批判されています。本当に適正なレートはどのくらいなのか、誰も正確なことは言えません。

【最終ページにアンケートのお知らせがございます。是非、ご覧ください。】

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