「御立尚資の「経営レンズ箱」」

売れ続ける芸人、島田紳助のすごさに学ぶこと

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2007年11月30日(金)

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 『紳竜の研究』というDVDがある。そう、漫才の紳助・竜介の紳竜だ。彼らの全盛期の演目をDVD化したものに加えて、紳助が、漫才師志望の吉本の後輩たちに対して、「プロの芸人とは何か」「売れるためには何が必要か」「どのようにして、自分の(芸人やタレントとしての)価値を上げていくか」といったことについて講義した内容も入っている。この後者の中味が、大変面白い。

 例えば、売れるために必要な「XとYの法則」というものが語られる。「競争の中で勝ち残り続けるには、『他とは違う自分独自の特色(=X)』と『世の中のトレンド(=Y)』を、どう合致させるかが大事。凡百の一発屋が消えていったのは、Yが変化しているのに気づかず、それに応じて、自分のXを進化させきらなかったから」──。まるで、企業の競争戦略そのもののような話が、具体例を交えて、実に説得力を持って語られる。

 ちなみに、漫才の世界で勝ち上がる過程では、(当時の先輩芸人が取り上げていなかった)若者の生活・行動をネタにしたうえで、従来にはない「スピード感」で語る漫才を作り上げ、差別化を果たしたとのこと。

 当然、このためには、それまでにある様々な芸風を分析し、そのうえで自分ならではのXを考えたに違いない。そして、社会に新しく生まれてきているYを、これまた分析的な視点で把握して、XとYの接点の作り方を考え出す、という作業も行われたはずだ。

 非言語的な「いわく言い難い」部分がある話芸の世界で、ここまで、分析的・論理的なアプローチを取った芸人は、さほど多くなかろうし、自分自身の方法論を「言語化」して、他人に伝える能力を持った人は、さらに少なかったに違いない。

 島田紳助さんは、漫才ブーム終焉後も、様々な形で第一線で活躍し続けている。何かの番組で拝見しては「この人は、随分頭のいい人だろうな」と思っていたが、このDVDを見て、「この人は、只者ではない」という思いを強くした次第。

先輩の漫才を一語一句ノートに書き写した

 さて、島田紳助さんが駆け出しの頃にやっていた具体的な分析作業は、「自分から見て、この人はすごい」と思う先輩の漫才を、逐一ノートに書き写すというテープ起こしの作業だったらしい。自らの手で一語一語を書き出す。そのことによって、初めて、笑いを生む構造や、押す・引くのバランス感などが明示的に分かる、ということらしい。

 おそらく、先ほどの「XとY」の戦略も、この「テープ起こし」の話も、「後から考えてみると、こういう価値がある」という部分はあるのだろうが、それにしても、自分自身の能力アップと勝ち残りのために、「自分の頭で考え、自分自身の方法論を作り上げていく」姿勢は、素晴らしい。

 ご本人いわく、「才能がなければ、どうにもならないが、努力しなければ、本当に才能があるかどうかも分からない」分野だけに、自分のキャリアをつくるために必死で知恵を絞ることの価値が大きいのだと思う。

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著者プロフィール

御立 尚資(みたち・たかし)

御立 尚資

ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。



このコラムについて

御立尚資の「経営レンズ箱」

コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。

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