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査定C評価の目線で経営判断を下す

世界シェア9割、優良企業アルバックの全員納得経営(2)

2008年5月8日(木)

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 液晶テレビに欠かせない、真空技術を使った製造装置で世界シェア9割以上を握る、東京証券取引所第1部上場企業アルバック(神奈川県茅ヶ崎市、従業員数1638人)。5期連続の増収増益の立役者、中村久三会長は、全員が納得するまで徹底的に議論する“ダラダラ会議”を通して社員の当事者意識を高めることが、現場の力をスピーディーかつ最大限に引き出すカギと考え、業績を大きく伸ばした。

 中村会長は「成果主義はアンフェアだ」と公言している。これは事業が成功するのか失敗するのか見えない中、社員が不安感を持ちながら働いているのを理解しているからだ。

 そんな中村会長は経営判断を下す際、査定A~Eまで5段階でC評価の人が不安なく働けることを重視する。なぜ、その中間層を見つめる目線での経営判断が会社を正しい方向に導くのかを聞いた。

(聞き手は、日経ビジネス オンライン編集長 廣松 隆志)

(前編「ダラダラ会議が現場のスピードアップを生む」から読む)

── 社員に向かって、「製造業の次の成長分野で世界一になる」と口酸っぱく言っているということは、どんな事業にしろ、会長にとって「決断の時」があるわけですね。

アルバック代表取締役会長、工学博士 中村 久三氏

中村 久三 (なかむら・きゅうぞう)氏
アルバック代表取締役会長、工学博士

1947年長野県生まれ。74年東北大学大学院金属材料工学専攻・博士課程修了。同年、日本真空技術(現アルバック)入社。88年同社千葉超材料研究所長。96年、アルバック社長に就任。2006年、会長に就任(写真:小久保松直 以下同)

中村 決断にスピードが必要なことは分かっていますが、なかなか、そうは決断できないんです。今、当社は太陽電池パネルの装置に力を入れていますが、果たしてこれが製造業の大きな位置を占めるかどうか、まだ半信半疑なんです。

── 半信半疑のまま、事業のゴーサインの決断を発している、と。

 ハイブリッドカー関連設備の事業も始めようとしているけれども、それも半信半疑です。私たち製造装置の世界には、運、不運があります。これは自分たちの力だけではどうにもならない。政治の流れも含めて、いろいろなことがあります。太陽電池についても、つい3年前までは、まともな産業になるとは誰も思ってなかったのですから。

── しかし、事業としてもう始めているということは、人事を尽くして天命を待つという段階に入っている心境ですか。

 人事を尽くしても成功しないことは多い。事業の成否が運や不運に大きく左右されるため、僕らは成果主義はおかしいと言っているんです。社員には、会社としてすぐに成果が上がらない仕事もやってもらわないといけない。確実に100%儲かり将来成長できる事業があるなんて思ってないですよ。成功の可能性はある、可能性は高いんだけれども、それは1つであって、そのほかにもこういう可能性もあるということで、ある程度ポートフォリオを考えながらリスクヘッジをするわけです。

 液晶ディスプレー(FPD)の装置もこの2~3年前にようやく盛り上がりましたが、私たち製造装置メーカー側は、もうピークアウトしています。つまり、儲かるようになったことを確認したのだけれども、それはもう終焉の時です。うちは「ポストFPD」というのを5年前から始めています。とにかくディスプレーの次をやらなきゃいけないと、すでに取り組んでいるのです。

失敗して、その詮索や犯人捜しを始めたら、会社はもう終わり

── 製造装置は、事業参入のタイミングが難しい世界だとよく分かりました。経営判断を瞬時に行わず、成功する可能性が高いと確認できてから参入するのでは、とてもじゃないけれど出遅れて勝負にならないのですね。

 そうです、もう全然だめなんです。

── かといって、先んじてやろうとしても、何が成功するかは分からない。

 失敗する可能性を頭に入れながら事業を進めることが大切です。そこで失敗したから何だかんだと言い始めると大変なことになり、もうみんな挑戦しなくなる。だから、いくつか失敗があって死屍累々なんだけれども、そんなものは企業にとっては当たり前だ、失敗なんか当たり前なんだ、次にまた何かで成功すればいいじゃないか、というように社員や経営者が考えないといけない。詮索や犯人捜しを始めたら、会社はもう終わりです。

── そんな会長のメッセージは、社員の皆さんがたくさん集まっている場で発信するのですか?

 新入社員の入社式が終わってすぐに行う研修で、まず僕が話します。日本の製造業は非常にピンチだという話、アルバックは「選択と集中をしないので、何でもやれ」という話。日本型の経営をやるという話。「失敗してもいい、とにかくチャレンジし、成功するかどうかは運が左右する」という話。その後もこれを何度も確認し、チャレンジをしなさいと言い続けています。

 若い人の中には、明らかに成功すると分かる仕事しかやれない人もいます。受けてきた教育が、いかに正確に早く答案に正解を書くかが問題で、何でも必ず答えがあるものだったのです。うちの会社では、ほとんどのことに答えがありません。しかも成功するかどうかも分からない。そういう仕事をやってもらっている人がものすごく多くいるので、それは不安を抱いていると思います。

30歳前後で査定がC評価の人が、会社を支えている

── 日々のいろいろな階層の方が参加する会議の中で、会長の言葉、もしくは雰囲気によって、失敗したら犯人捜しをするとか、何で失敗したんだという方向にいかないような空気や文化をつくっていくことが大事なのでしょうね。

 ネガティブな方向にできるだけいかないように心がけています。そして、経営者の立ち位置や目線という話がよくありますが、僕らの立ち位置は、現場でやっている人たちと同じ立ち位置なのです。上から物を見るんじゃなくて、30歳前後の、査定で言うと5段階でCぐらいの査定の人です。そういう人たちと同じ立ち位置で物事を見るのです。そこに立たないと、会社の方針を間違えてしまうというのが僕の意見です。

── 30歳で査定がC評価の人の立ち位置が一番いいというのは?

 結局、そこの人たちがアルバックを支えているのです。査定がAとかBの人は、毎日、指導的な立場で、同じ年齢でも頭が良く口も立つから、こういう計画で何かやりましょうとか、いつもいろいろなプレゼンをやっているわけですね。Cとか、Dとか、Eの人たちは、口出しせず、黙ってそれを見ているわけです。

 製造業というのは、AとかBの人たちはずっと楽しい思いをして一生終わるわけです。失敗したってCとかDの人が現場で苦労するわけですから、Aの人は苦労しない。頭がいいから、何か理由をくっつけます。

 AとかBの人は会社にとって必要なんだけど、どこにでもいる人で、こういう人はいっぱいいます。今、米国のトップダウン経営はAとかBの優秀さで突破しようとしているんだけれども、アルバックみたいな大型の装置を納めている会社が何か事業を立ち上げるとなると、いくらAとかBの人でも現場に出ているわけじゃないから、ミスがいっぱいあるんです。そのミスをCやD、Eの人たちが現場で一生懸命修正して、物ができるんです。だから、いわば総合力でようやく物づくりは完成するということがあります。

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「査定C評価の目線で経営判断を下す」の著者

大村 洋司

大村 洋司(おおむら・ようじ)

海外事業戦略室プロデューサー

1989年日経BP入社。95年「ナショナルジオグラフィック日本版」編集、2004年同誌副編集長。07年「日経ビジネスオンライン」副編集長。10年「日経ビジネスアソシエ」副編集長。12年1月より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官