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野村証券はなぜ危機管理に失敗したのか

組織の生死を分けるクライシスマネジメント

  • 郷原 信郎

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2008年5月21日(水)

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 NHK、新日本監査法人、野村証券と、職員が在職中に行ったインサイダー取引が証券取引等監視委員会に摘発されるケースが相次いでいる。このような不祥事に遭遇した場面で組織として行うクライシスマネジメント、それは、社会的批判・非難によって組織が受けるダメージの大きさに決定的な影響を及ぼす。

 まず、筆者が第三者委員会の委員長として関与した新日本監査法人の事例と報道からうかがわれる野村証券の事例とを比較してみたい。

組織に決定的なダメージを与えてしまった野村

 新日本の事件は、昨年7月に退職した元職員が、在職中に、監査を担当していた企業の業績予想に関する情報を使って他人名義で株式売買を行ったというものである。1回目は、業績の上方修正の情報を知って株を買ったが、逆に値下がりして損をしてしまい、2回目は、業績下方修正の情報を使った「空売り」をかけて利益を得たが、トータルでは損をしたというものである。

 野村証券の事件は、事件表面化の当日まで在籍していた中国人社員が、M&Aの仲介など投資銀行業務の中枢を担う企業情報部在籍中に、M&Aに関する情報を使って多数の株売買を行って利益を上げていた事案である。

 監査法人も証券会社も証券市場に対して重要な役割を果たすべき存在であり、構成員が業務上知り得た情報に基づいて株売買を行うことによる信頼の失墜、行為の社会的評価という点では同等である。

 ただ、新日本の事件は課徴金事件にとどまり、株売買全体では損失を出しているのに対して、野村の事件は行為者が逮捕され刑事事件になっていること、トータルではかなりの利益を上げていることなど、野村の事例の方が事件としてはより重大と言えよう。

 しかし、そのような行為に及んだのが、野村の場合は中国人社員という特殊性があったのに対して、新日本の事件の場合は数千人に及ぶ公認会計士職員のうちの1人であり、組織全体の信頼性に与える影響という面では、むしろ新日本の方が深刻と言えなくもない。

 ところが、事件が組織に与えた影響という面では決定的な違いが生じた。野村の事件がマスコミで連日大きく報道され、企業年金連合会、王子製紙など野村との取引の停止を打ち出す顧客が相次いだのに対して、新日本の方は日経新聞のスクープが一面で大きく取り上げられた以外はマスコミの取り扱いは比較的小さく、クライアント企業からの監査契約見直しの動きも全くない。

 この違いをもたらしたのは何だったのか。その大きな要因となったのが、クライシスマネジメントに対する姿勢と方法の違いである。

マスコミ対応など、すべて先手で動いた新日本

 新日本の執行部が事件を初めて知ったのは2月上旬であった。元職員が在職中に監査先企業から得た情報でインサイダー取引を行った疑いで監査法人が証券取引等監視委員会の調査を受けるという前代未聞の事態に衝撃を受けた理事長らは、前年の不二家問題でも信頼回復対策会議の議長を務めるなど、多くのクライシスマネジメントに関わってきた筆者に相談。

 企業、官庁、政党などの多数の不祥事調査に関わってきた元特捜検事の赤松幸夫弁護士に緊急調査を依頼し、早期に事件の自主公表を行うべく準備を開始する一方、事件の影響を最小限にとどめクライアント企業からの信頼を維持するための方策の検討に入った。

 結果的には、3月3日の日経新聞朝刊で事件が報道されたが(この新聞報道の動きについては事前把握し、報道の前日には理事長自身が日経新聞の記者と接触し、事件の内容や株式売買がトータルでは損失となっていることなどを説明していた)、同日自主公表の記者会見を行うことは、前週末の段階で決定して準備を進めていた。

 午前10時から開かれた会見では、筆者を委員長とする外部の有識者等による第三者委員会を設置して事実関係、法人内の株式取引の実情調査、再発防止策の検討を行うこと、調査を行うために赤松弁護士ほか弁護士13人からなる調査チームを編成したことなどを公表した。

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