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コンプライアンス不況にどう立ち向かうか

  • 郷原 信郎

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2008年6月25日(水)

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 最近、「コンプライアンス不況」という言葉をよく耳にする。企業活動に対する規制を強化する方向での経済法令の改正が相次ぎ、企業がその法令遵守の徹底を求められることがこのところの景気悪化の原因との見方を示す言葉だ。

 コンプライアンスが不況を招く要因となるのか、それは、その言葉をどのように理解するかにかかっている。コンプライアンスを単純に「法令遵守」と置き換える考え方は、経済活動全体に対しても個々の企業の活動に対してもマイナスの影響を与える。

 しかし、私がかねて主張しているように、コンプライアンスを「社会的要請への適応」と捉えるのであれば、決して不況の要因にはならない。コンプライアンスに対する誤った理解こそが不況を招く原因だ。

 法令遵守という意味のコンプライアンスが経済に与える悪影響は、2つの面に整理することができる。1つは、経済社会の実態と乖離した法令の「遵守」が経済活動の停滞を招くということ、もう1つは、「法令遵守」という意味のコンプライアンスを企業経営と切り離して「単なるコスト」と捉える考え方が、個々の企業の活動自体に対してマイナスの影響を与えるということだ。

法令ではなく会社の信用と技術者倫理が支えた安全性

 実態と乖離した法令の「遵守」を押しつけることによって、経済活動の停滞を招いている事例は枚挙にいとまがない。その典型が、一昨年の耐震強度偽装事件を発端とする建築基準法改正による建築不況の問題だ。

 この問題は、そもそも建築基準法というのが何のための法律で、それを社会で活用していくために、どういう方向で法律を運用していったらいいのかという基本的な視点が欠けていたところに根本的な原因がある。

 建築基準法は、「建築物の敷地・構造・設備・用途に関する最低の基準」を定めるものであり、建築確認制度というのは、戦後復興で全国に多数の建物が建築されるにあたって、建築士が設計を行っていることを前提に、行政においても事前に最低限のチェックを行うという趣旨で設けられた制度だった。

 この制度がもともと予定していたのは、木造の一戸建てのような単純な構造の建築物だった。経済の発展に伴って、建築技術も飛躍的に進歩し、建築物も高層・大規模化し、複雑で多様な構造のビルが建築されるようになったため、建築士の設計と建築主事の建築確認によって安全性を確保するという制度は、大規模建築については形骸化してしまった。

 多くの人は、地方自治体や民間建築確認機関が行う建築確認が行われた以上、設計図通りの建築が行われれば、耐震性能が建築基準法の基準を満たしているものと信じていたが、実際には、少なくとも耐震性能に関する限り、建築確認は法が定めた基準を確認する機能をほとんど果たしていなかった。つまり、建物の安全性は、建築基準法という法令によって確保されてきたわけではないのだ。

 しかし、建築確認が形骸化していたからといって、日本の大規模建築物の安全性が低かったということではない。阪神淡路大震災のような極端な場合を除けば日本の建築物の安全性に重大な問題が生じることはなく、全般的には高い水準に保たれてきた。

 それは、設計者、施工会社の会社としての信用が大切にされ、技術者の倫理感がしっかりしていたからだ。建築基準法という「法令」や建築確認という「制度」ではなく、会社の信用と技術者倫理が日本の建築物の安全性を支えてきた。

「遵守」の押しつけが建築不況を招いた

 ところが、1981年の建築基準法の改正で耐震基準が初めて導入された際、その基準は既設建築物には適用されず、それ以降のものだけに適用されることになった。それ以前に建築された建物には、今回問題になった耐震強度が偽装された建物より耐震性が低いものも多数あるが、新耐震基準の適用の対象とされなかった。

 このことが、耐震性能に関して建築基準法の基準の性格を非常に曖昧なものにしてしまったことは否めない。「最低限の基準」なのであれば、絶対に満たさなければならない基準という認識で設計・施工が行われ設計者・技術者の倫理観も十分に働くはずだが、基準が満たされていない建築物が実際には多数あるということであれば、絶対的な基準という認識は希薄になってしまう。しかも、そういう二重の基準が持ち込まれたにもかかわらず、建築確認が単なる形式チェックにとどまっている実態は変わらなかった。複雑な構造計算によって算出される耐震強度が正しいかどうかなど、建築主事が行う建築確認ではほとんどチェックはできないので、建築士が行う構造計算を信用するしかなかった。

 また、耐震強度の構造計算は、あくまで1つの計算方法であり、実際の地震による倒壊の危険は敷地の地盤などの自然条件によっても異なる。さらに設計上問題はなくても、その設計図通りに施工しない手抜き工事が行われる危険性もある。

 そして、1990年代後半の建築不況の中、民間の建築業界の価格競争の激化によって、極端な安値受注が横行し、そのしわ寄せが施工の現場を直撃した。その結果、工事の質を落として採算を確保しようとする手抜き工事、粗漏工事が横行したとも言われている。設計の段階で耐震基準を充足していても、施工段階で強度不足の建物が建築される危険性は全般的に高くなっている。こうして、実質的に建物の安全性を確保するためのシステム全体に綻びが生じる中で、1人の無責任極まりない建築士によって、多数の建物の構造計算書を改ざんするという露骨な「違法行為」がいとも簡単に行われたのが耐震強度偽装事件だった。

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