「トップに聞く! 大変革の胸の内」

本物のおもてなしで、国境を越える−下

「石橋を叩いても渡らない」と、
「お客のためには採算度外視」が同居

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2008年7月8日(火)

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 台湾観光客の受け入れ、そして台湾での旅館オープンをする加賀屋。海外需要の開拓の背景には、バブル崩壊後の景気停滞による国内観光客需要の減少という厳しい現実がある。

 しかし、現在の旅館業の苦境は、こうした外部環境の悪化以外にも、それまでの好況期に経営のタガが緩んだ面も影響していると、加賀屋の小田禎彦会長は言う。小田会長も本業から外れた投資をしたことはなかったが、かつて旅館からホテルへの転換を目指して、挫折した経験を持つ。

 労働集約型の旅館業が厳しい時代を生き抜くためには、人件費を中心とする収支構造の改善が欠かせない。。加賀屋は設備投資や事業の多角化に取り組む一方、客室係が旅館業の原点である「おもてなしの心」を昇華させていくために、母子寮の運営や大胆な新陳代謝などに取り組む。改革の中身を聞いた。

(聞き手は日経ビジネス オンライン副編集長 真弓 重孝)

加賀屋の小田禎彦会長

(写真:花井 智子、以下同じ)

 ―― 加賀屋の宿泊客のピークは1991年の33万人、2007年はその67%と言うことです。加賀屋を含め、国内の観光業界はバブル崩壊後、厳しい時代が続きました。

 小田 バブル崩壊で、最もひどい打撃を受けたのが旅館でしょう。この加賀温泉でも我々の大先輩の老舗旅館が倒産、退場している。これは、胸が痛むし、とても怖いことです。でも、よくよく考えれば、経営者にも慢心があったと思うんですね。

 バブル華やかりし1991年までの十数年間は、旅館の経営者にとっては、これ以上ないというくらいにいい目を見てきたわけですな。あの好況が経営者の目を誤らせたと思うんですね。

 私もバブル期にいろいろと投資をしました。でも、株やゴルフ場ではなく、配膳や下膳のための自動搬送システムや、客室係向けの母子寮と保育園を兼ねた「カンガルーハウス」など、本業にかかわる投資でした。

 自動搬送システムには10億円を投資しましたけど、これによって客室係が配膳や下膳に時間を取られることなく、お客さんとの会話に時間を取れるようになりました。カンガルーハウスというのは、客室係が安心して働くために作った母子寮と保育園のことです。昼間はお母さんに代わって保育士が面倒を見ると。これも、後顧の憂いなく接客に専念してもらうためですね。

ホテル経営に憧れた若き日

配膳、下膳の自動運搬システム

 ―― 住友家の「浮利を追わず」ではないけれど、そういった本業重視は加賀屋に代々伝わる経営哲学なのでしょうか。

 小田 私のオヤジがとにかく堅実で、石橋を叩いても渡らないようなところがありました。政治はやってはいけない、本業以外のことをやってはならない、と。1泊2食の食事提供以外には手を出しちゃいかんよ、ということだったと思うんですよね。

 一方で私の母は、お客さんさえ喜んでいれば、次の商売につながるという考え方でした。とにかく採算を度外視してでもお客さんを喜ばせる、というくらいお客さんを大切にしていた。カネに渋いオヤジと顧客満足を第一に考える母。このコンビネーションが加賀屋の基礎を作ってくれた。

母子寮兼保育園「カンガルーハウス」の一コマ

 私はこの2人を見ながら、商売というものを学んできた気がします。どれだけお客さんが喜んでも赤字では罪悪。でも、黒字であってもお客さんが喜んでくれなければ、これまた商売が成り立っていかない。この両方が満足できて、初めて継続的な繁栄があるわけで。商売人として一番大切なことをガキの頃から見ていた、ということが大きいんでしょうな。

 ―― 初めから加賀屋を継ぐおつもりで。

 小田 そうでしたね。私、オリンピックの前年(1963年)に立教大学を卒業しました。この当時は、親の跡を継ぐというのは、優秀な人がやるようなことじゃないという風潮があってね。ばかにされましたけど、親が苦労しているのも見ているし、跡を継ぐものだと考えていました。

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。



このコラムについて

トップに聞く! 大変革の胸の内

変革の真っ只中にある企業や組織のリーダーに、日経ビジネスオンライン編集長が直撃インタビューを敢行。なぜ変革しなければならないのか、変革の推進力は何か、そして変革を成功させるためのポイントなどを聞き出します。

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