「常盤文克の「新・日本型経営を探る」」

「いいモノを作った」思いをどう伝えるか

お客と売り手、作り手との間に適度な緊張感が必要

バックナンバー

2008年7月29日(火)

1/2ページ

印刷ページ

 日本のモノづくりを語るときに、「いいモノを作れば売れる」といった論調がしばしばあります。ところが、いかに優れた製品を作ったとしても、それをお客に届けなければ作ったことにはなりません。お客に選んで買ってもらい、そして使って喜んでもらって、初めて「作る」ことの意味が出てくるのです。つまり、作ることと売ることは表裏一体の関係にあります。作って、売ってこそモノづくりなのです。

 そもそも日本人は手先が器用でモノづくりが好きです。好きで上手だからこそ、モノづくりの方に議論がいってしまいがちです。事実、職人技の積み重ねが優れた製品を生み出し、メード・イン・ジャパンの名を世界に知らしめました。日本のモノづくりの質が一流なのは世界が認めるところでしょう。ところが、モノを「売る質」については、あまり議論されることがありません。

品質と価格だけでは追い抜かれる

 なぜ、「売る質」が重要なのでしょうか。例えば、携帯電話について考えてみてください。日本の技術力が、製品がどれだけ優れていても、日本メーカーの携帯電話は世界市場でほとんど売れていません。むしろ、これまで日本の後塵を拝してきた韓国メーカーがトップレベルの存在感を示しています。品質の面でも、韓国製の携帯電話が日本製を凌ぐと評価されることすらあります。

 モノの質だけを追いかけていては、いつか必ず追いつかれ、追い抜かれます。日本製の自動車が米国製を凌ぐ勢いで世界に広がったように、やがて中国を筆頭とする新興国が日本製品に匹敵するモノを作ってくるでしょう。しかも、日本製より圧倒的に安いはずです。モノの質が優れているだけでは、もはや日本企業は生き残れないのです。

 これからはモノの質だけではなく、モノを売る質、つまり売り方の巧拙が重要になってきます。よきモノづくりを続けたいのであれば、よき「モノ売り」でなければなりません。よきモノ売りとは、安売り競争に巻き込まれず、自分たちの作ったモノの価値を主張し、その価値に相応しい適正な価格で売り抜くことができるモノ売りのことです。

 ここで私が言う「売る」ということの意味は、単なる宣伝やマーケティング、販売チャネルの充実といった手法の話ではありません。従来の手法を越えていかにお客に近づき、いかに「モノづくりのこころ」、丹誠こめて作ったモノへの思いを伝えるか、ということです。それが「モノを売る質」にもつながってきます。

 マーケティングというと、どうしても科学的な定量的なアプローチに陥りがちです。物事を細分化し、測定可能なものだけを抽出して数値化し、そしてこのデータをもとにいかに売るかを考えます。しかし、このアプローチには限度があります。なぜなら、これでは作り手のこころがお客には伝わらないからです。結果としてお客と作り手の目線が合わなくなってしまうので、モノ売りの質は高まっていきません。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント0件受付中
トラックバック
著者プロフィール

常盤 文克(ときわ・ふみかつ)

元・花王会長
1957年東京理科大学卒業、花王入社。スタンフォード大学留学後、大阪大学にて理学博士。花王で研究所長などを経て、76年取締役。90〜97年まで社長、2000年まで会長。現在は企業の社外取締役、アドバイザリーボードメンバーなど幅広く活躍。著書に『モノづくりのこころ』(日経BP社)、『コトづくりのちから』(同)、『ヒトづくりのおもみ』(同)、『反経営学の経営』(共著、東洋経済新報社)、『いま・ここ経営論』(共著、同)など多数。

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内