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コンクリのビルは「信用」で建っている

合理的なシステムが、世の中に通じにくくなってきた

2008年9月8日(月)

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養老 都市開発に「大局観」というものが欠けているのは、20世紀の考え方の特徴だったかもしれません。石油問題もそうで、実は経済成長とエネルギー消費が完全に平行する、というモデルを立てて、アメリカと日本と西ドイツがぴったりそれに当てはまるという証明を1970年代に最初にやったのが、ドイツの物理学者だったんですよ(※)。

※ライナー・キュンメルの「LINEX関数」。詳しくは『地球最後のオイルショック』(デイヴィット・ストローン著、新潮選書)第5章を参照

 経済学ではなく物理学者だったんですね。

養老 その時点での経済学は、「経済成長はエネルギー消費と関係している」、ということに気が付いてない。あんまり大きな声では言えないけど、文科系の学問ってのは…と思ってさ(笑)。

 環境問題のデータも、読み違いはだいたい経済学方面から、と言われていますよね。自然科学がそこにうまく入ってこない。

養老 経済の考え方は、つまりは欲望をベースにするから。その意味でいうと、建築も基本的には客観性、科学性重視で、経済の要素はその次でしょう? いくら経済を知っていたって、建てたものがつぶれたら話にならない。

 とはいっても、建築の基本はやっぱり人間同士の信用関係なんです。特にコンクリートが主流になった20世紀のやり方というのは、その信頼で成り立っているから。だって、コンクリの中に何が入っているか、一度コンクリを打ってしまったら分からないですから。

――えっ、中に何が入っているか分からないんですか。

 そう。だから社会が人を信用できない殺伐としたものに移行した途端に、事件は出てくるわけで。

養老 強度偽装だね。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


 コンクリートというのは、いろいろな意味でヤワさを中に持っている。でも、あれだけ世界に一気に普及したのは、技術としてものすごく単純な技術だったからなんです。要するに簡単なベニヤを組み立てる技術があれば、どこでも、世界中でできる。

 でも、組み立てた中に何が隠されているかについては、まったく信用で成り立っています。猫だって時々入っちゃいます。世界にばーっと広まった技術ですが、実はその中身は誰も保証できないという状態なんですよ。

養老 20世紀以前の手法では、そういう問題は起こらなかったんですか。

 石造りなんかの“石を積む”という技術は、やっぱり一個一個積み上げていくものですから、ちゃんと積み上げていかないと、そもそも建物が建たないですよね。そこで技術的にあるレベルが保証されているわけですが、コンクリートになった途端に、まったく保証がない世界に入っちゃったんです。

養老 コンクリート建築の信用性というのは、社会とか国の信用性とかとつながるということだな。

 間違いなくつながっています。特に日本がまずかったのは、逆説的ですが、日本の大工さんの技術力が高くて、ベニヤを手早く組み立てられたことです。だから建築家がどんなに勝手な造形で図面を描いても、日本の大工さんさえいれば、たちまち世界で一番きれいなコンクリートが打ち上がる。妄想みたいなものを実際に形にしてくれる、素晴らしい職人さんがいたわけです。

 日本の建築と建築家は、丹下健三さん以来、黒川(紀章)さんも、安藤(忠雄)さんも、その、日本の職人さんがベニヤをうまく組み立てるというベースがあって世界に名前を知られた。まあ、甘やかされていたようなものです。もちろん僕もその恩恵にあずかった。それで物作りの厳しさを忘れちゃったんですね。

――21世紀に入ってREIT(不動産投資信託)などによって、都市建築の証券化が進みました。建築が金融商品化して中身がよく分からないというところは、コンクリートの話とそっくりですね。

養老 思い出した! 黒川紀章と藤森照信のほかに、僕がもう1人知っている建築家。安藤忠雄だよ。ほら、新聞に猫の印。

――養老先生、いきなり違う話を。

養老 「読売新聞のマルちゃん拝見しました。すごいネコです。日本社会のフラフラをにらみつけていておもしろいです。足の太さだけでも天然記念物です。安藤忠雄」。猫のマルちゃん。突然手紙をよこして、安藤忠雄が何の用事だと思ったら(笑)。

 ああ、あのネコがマルちゃんなんですね。

養老 そうそう、あ、こっちに来たね。

 安藤さんは犬マニアだから、自分の犬にコルビュジェという名前を付けているんです。コルビュジェというのはピロティ(注・建築用語。1階部分を柱にして建物を空中に建てる形式)の発明者でしょう。犬の足はピロティで、だから名前はコルビュジェだと。

――先ほどのコンクリートに話を戻しますと、それこそコンクリートでできていれば、もう安心だ、みたいな感じが消費者側にはあります。

養老 コンクリート神話みたいなものがね。

 コンクリートは、中が何か分からないからこそ、そこに強度を連想させるものがある。

 生活のあやうさとか、近代の核家族のあやうさ、頼りなさのようなものを支えてあまりある強さを、連想させるでしょう。そういう何か、人間心理に付け込んでいる、詐欺みたいなところがありますね。

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「コンクリのビルは「信用」で建っている」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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