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殿様の土地を“サラリーマン”が分割していく

2008年9月16日(火)

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隈 かつての日本の都市は、殿様というか、お大尽というか、名主のような存在がいて、そのお大尽の力で何とか、都市イメージを保てたという歴史があります。でも、ニューヨークのように、政治的なパワーで都市が作られたという例はほとんどないんですね。

――東京でいうと、白金の自然植物園とか、新宿御苑とか、大きな公園やホテルの敷地は、ほとんど殿様や皇族が以前に持っていた土地ですよね。

養老 それを完全に民主化しちゃったらどうなるのかというのは、鎌倉がいい例ですよ。
 昭和時代の大きな別荘が全部つぶれていって、その跡地に、極めて細分化された、非常に小さな単位の家ができる――こういうのは何て言うんだろう、何か適当な述語を作ってみたいね。「細民」とでも言うのかな。そう、細民的環境にある。

隈 鎌倉に限らず、都市の中心部も周辺の文化的な土地も、お屋敷がつぶれた後は、どこも細民化したマンションになりますね。もったいないことなのですが。

養老 そうなんだよ。

隈 ただ、もったいないな、という情緒的な言葉で片付けるのではなく、では、どうしたらいいか、の方を考えるべきなんだと思うのですが。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


隈 東京はバブルの後でも、あちこちで再開発が進められています。養老先生がおっしゃる細民化で、むしろたくさんの人が住めるようになるのだったら、その方がいいんじゃないか、という単純な議論もあるけれど、でも、そうすると、周辺の道路とかインフラの面で別の問題が出てくるし、景観だって壊れます。

養老 それを僕はシステム問題と呼ぶんだけど、そういうことを全部、この国は置き去りにしてきたな、と思いますね。この間の秋葉原の事件の後が典型的にそうだったけど、まず歩行者天国をやめて、ナイフの販売を規制してって、本当にあほじゃないかと思うんだよね。そういうことになっちゃうでしょう。

隈 システムに切り込まずに、対症療法しかできない。

養老 一番手前のところしか分からないから、そこしか考えない。因果関係で考える習慣がないから、そういう大きなシステムの問題というのは、いつも置いてけぼりを食っちゃうんですね。人口圧力設計が大事だって僕は言いましたけど、日本はこれから人間が減っていく方向になると思うんですね。上手に減らしていく、と全員が決めれば、都市計画はずいぶん楽になっていきますよ。

隈 その通りですね。

養老 都市にばかでかいものを作るんだったら、集約の効果を出すような計画を練る。都市に人口が集中すると、地方では土地が空いていきますから、今度は過疎地をどう利用するか。国土を全体的に利用するということを、本気で考えた方がいい。

 ところが土地を問題にすると、省庁間の縄張りがまず大きな壁になる。農水、国土交通でしょう、それから環境省、もうおそらく全部絡んでくる。海岸線の問題もそうで、とにかく全部所轄の官庁が違うわけですね。こんなシステムでは都市計画って無理だろうよ、ということなんですよね。

運河の都に手すりを付けろ!

隈 僕が長崎県美術館の設計をしたときに、敷地に運河がありまして。その運河の管轄と建築の管轄が全然違うんです。で、運河には、子供が落ちないように1メーター10センチの手すりを付けろ、という規則があるんです。でも、そんな手すりを付けたらもう運河とは言えないじゃないですか。ベネチアに全部手すりを付けたらどうなる、という話ですよね。

養老 分かりますね。

隈 美術館サイドは、美術館と運河を一体化した雰囲気にしたいから、手すりを外そうとした。でも、それができない。だったら、日本中の海岸に1メーター10センチの手すりを付けるのか、ということですが、もう日本国中、全部そういう具合になっている。

養老 それは取ることができたんですか。

隈 いろいろな理屈を付けて。手すりの手前に緑地帯があるのですが、その緑地帯の幅と手すりの幅が合計して1メートル10センチになります、という理屈で、手すりを低くできた。それで何とかなったのですが。


(写真:大槻 純一)

養老 鎌倉の鶴岡八幡宮の前の通り。あそこは鎌倉のメインストリートなんだけど、だんだん統一感がなくなっていて、せめて建物の色には統一感を出したい、と有志で動いたことがあったんですよ。それ(の陳情先は)、最終的にどこに行くか分かりますか。いろいろなところを行って。

 市役所とか、国の住宅局、都市局とか、いろいろあると思いますが。

養老 あれ、最後は公安委員会(※)なんだよ。

※都道府県の警察を管理するための行政委員会

 公安ですか。

養老 交通信号の邪魔にならないようにって(笑)。

 そういうところまで出てくる。その統一のテーマカラーは決まったんですか。

養老 だからもう、やめ(笑)。交通信号に引っ掛かるとかね。あれ、日本特有の現象だね。役所の。

暗黙の了解の質が下がってきた

 そういうものを、オーバードライブで上からやるビジョンのある政治家が、日本には長いこと不在ということですね。

――そういうお上のコントロールが、機能していた時代はあるのですか。

 いや、機能していた時代は、実はかつてもあんまりなかった。

養老 そのコントロールの主体は、日本の場合は世間のような気がしますね。暗黙の了解ということが日本では大事なんですよ。これが昔から非常に厳しくて、だから子供が運河に落ちたらどうするんだ、みたいなことにもなっていくんですね。

コメント9件コメント/レビュー

・よく日本は全体主義であるといわれますが、こと都市の構造や計画に関してはこれほどの自分勝手主義な国もないだろうと思っています。日本は中庸の国といわれますが安全ということが関係した途端に理性を失って完全性を求めたがるようです。日本人は協調性があるといわれますが権限や利害が対立したとたんにこんなにも非協力的にしか振舞わなければ何も動かせないのも当然だと思います。日本は平等な国であるといいますが経営と現場はカースト的関係のようです。 ・日本人は形式を重んじるといいますが、さまざまな制度について仏作って魂いれずで数字や基準が一人歩きという点では確かにそのようです。 ・これらは乱暴に言えばあまりに権限と責任を分散させすぎたことに由来する分散愚なのだと思います。社会行政会社すべてが分散愚に感染しているようです。(2008/09/16)

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「殿様の土地を“サラリーマン”が分割していく」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

・よく日本は全体主義であるといわれますが、こと都市の構造や計画に関してはこれほどの自分勝手主義な国もないだろうと思っています。日本は中庸の国といわれますが安全ということが関係した途端に理性を失って完全性を求めたがるようです。日本人は協調性があるといわれますが権限や利害が対立したとたんにこんなにも非協力的にしか振舞わなければ何も動かせないのも当然だと思います。日本は平等な国であるといいますが経営と現場はカースト的関係のようです。 ・日本人は形式を重んじるといいますが、さまざまな制度について仏作って魂いれずで数字や基準が一人歩きという点では確かにそのようです。 ・これらは乱暴に言えばあまりに権限と責任を分散させすぎたことに由来する分散愚なのだと思います。社会行政会社すべてが分散愚に感染しているようです。(2008/09/16)

街並みは点描の様なもので、個々の建物の近似性が重奏をなしていくものだ、というのは欧州の旧市街辺りを散策すれば誰でも思うものですが、日本はデザイナーズだろうが注文住宅だろうが、造成地や建物単位でデザインが完結し、結果日光江戸村の隣にハウステンボスがある様な混沌が当たり前になってしまう辺りが街並みに致命的な悪影響を及ぼしていると思います。しかも神楽坂や京都の様な地場が強く比較的重層的な街並みを残す地域ですら近年横紙破りの事業者が多く、新規居住の方も地域保全への関心が希薄な方が少なくないことを考えるとこれらが今後もいや増していくことは必定でしょう。サラリーマン化というか、近視眼で短期スパンでしか物事を量らない人が減らない限り、これらの傾向が進み続ける一方なのかな、と悲観的に考えてしまいます。(2008/09/16)

耐震偽装マンション事件の例に見るように、サラリーマン層は広くて安価な物件には易々と飛びつく。細分化した土地利用を防止するには、そうした広くて安価な物件を大量にサラリーマン層に供給すればよい。23区内の辺境地域、足立区とか荒川区とか北区などで、超高層の住宅を大量に安価で販売し、かりに鎌倉の小住居を売却すれば2千万円くらいの差額を入手できるようにすればよいのだ。実際に東京郊外の戸建ての小住宅は高齢化などで手入れもされず無人の歯抜け状態が増加しているらしい。高島平の巨大団地なども外国人留学生や学生の入居などの対処療法でなく、新たに超高層住居へ建替えすべきだ。(2008/09/16)

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