「御立尚資の「経営レンズ箱」」

失敗学から考えるリーマン破綻

「もっと大きく」が招く災い

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2008年9月17日(水)

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 今、トロントでこの原稿を書いている。ちょうど日本からこちらに向かう機内にいる時間に、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻、メリルリンチのバンク・オブ・アメリカへの売却が報道され、北米のメディアでも、この話題についての報道がヒートアップしている。

 政治、特に米大統領選挙への影響から、個々人が預金をはじめとする金融資産の保全のために何をすべきか、といった話題にいたるまで「これから、どうなるのだろう」というトーンでの報道が続いており、ついつい1997年頃の日本の状況を思い出してしまう。

 1997年の山一証券、北海道拓殖銀行の破綻、そして翌年の日本長期信用銀行(長銀)の破綻。この当時の日本での報道内容も、「いったい、これからどうなってしまうのだろう」という危機感にあふれていた。現在、危機に瀕している欧米の投資銀行が、救済する側として当時取りざたされていたことを思うと、隔世の感がある。

 その後の日本の状況から考えると、金融危機は様々な形で実体経済にダメージを与え、想像以上に経済全般の立ち直りの足を引っ張るだろうし、また、ほぼ間違いなく金融業界の大型再編が連鎖的に続いていく可能性も高いだろう。

 今回はこういった「今後の予想」から少し離れ、「規模の拡大」の限界について考えてみたい。

投資銀行のビジネスモデル変容

 ここ何年かの間に、投資銀行のビジネスモデルは大きく変容してきていた。元々の本業である「資金調達側(主として企業)」と「資金提供側(主として機関投資家)」をつなぐ債権や株式のプライマリー業務は、厳しい競争と顧客の知識・能力レベルのアップで、次第に大きな利益を上げることが困難になってきていた。

 その後脚光を浴びたM&A(企業の合併・買収)関連のビジネスも、年によるばらつきが大きく、継続的な利益の源泉として投資銀行全体を引っ張っていくには、力不足であることが明らかになった。一方、投資銀行の経営陣の多くは、報酬のうち業績にリンクする部分の割合が極めて高いこともあって、四半期ごとの収益確保が至上命題化していた。

 こういった状況の下、自らのバランスシートを使って(場合によってはSPC-ある特定の目的のために設立され、運営される会社-という形でオフバランスの器もフル活用して)リスクを取るビジネスがどんどん勢いを増してきていた。プリンシパルインベストメント(企業に対する自己投資)や、MSCB(転換価格修正条項付き転換社債)といった商品を通じた一定期間のリスクテイクが、これに当たる。

 今回の金融危機のひきがねとなった証券化商品ビジネスもその一環であり、本質的には、「投資代理業」から「投資業そのもの」への投資銀行ビジネス変容を、端的に示す領域だと思う。

 収益プレッシャーの中で、金融工学なかんずくリスクの細分化と再構成の技術を組み合わせながら高い収益をもたらす証券化商品ビジネスは、高い伸びを続け「より大きな規模」を追求していくこととなったわけだ。「これまで問題なく収益が上がっていたから、より大きなリスクテイクを」という規模拡大の思想は、果たして妥当だったのだろうか。これが、大きな問いである。

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著者プロフィール

御立 尚資(みたち・たかし)

御立 尚資

ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。



このコラムについて

御立尚資の「経営レンズ箱」

コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。

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