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プロ選手の心に根づく“カーネギーの教え”

スポーツができる社会貢献とは?(下)

2008年9月25日(木)

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 前回のコラムでは、米メジャーリーグで日本人2位の勝ち星を挙げている大家友和投手のチャリティー学習体験ツアーについてリポートしました。現在、大家投手はメジャー登板を目指して、マイナーに所属しています。私は、彼を訪ねて本拠地のノースカロライナ州シャーロットに出向いて、ある心温まる光景を目撃しました。

 私が、スカウティング(相手打者の調査・分析)をしている大家投手やその仲間たちとバックネット裏から試合を観戦していた時のこと。目の前の席に、両親と一緒に試合を見に来ている5歳くらいの男の子がいました。すると、ちょうどその子の近くにファールボールが飛んできたのです。

選手にボールをねだる子どもたち

イニングの間、選手にボールをねだる子どもたち。ボールは、子どもたちにとって“宝物”だ

© AP Images/Jeff Roberson

 男の子はシートを乗り越えて、ボールに駆け寄っていったのですが、残念ながらタッチの差で近くに座っていた男性にボールを取られてしまいました。その男の子は、がっくりと肩を落としながら両親のところに戻ると、声を上げて泣き出してしまいました。周りの客席からは、ボールを取った男性に「子供にボールをあげたらどうだ」といったヤジも飛んだのですが、その男性は涼しい顔をして観戦を続けたのです。きっと、自分の息子へのプレゼントにでもしたかったのでしょう。

 すぐ後ろに座っていた我々は、その光景にやりきれなくなりました。仲間の1人が、ぽつりと「あの子にボールあげられないかな」と言うと、大家投手が「そやな」と言って席を立ち、クラブハウスからボールを取ってきました。仲間の1人が、大家投手からだと告げてボールを男の子に渡すと、さっき泣いていたのが嘘のように笑顔が広がりました。はにかみながら大家投手のところにやってきて、お礼を言って戻っていきました。

 胸のつかえが取れた我々は、ホッとして試合観戦を続けることができました。

 すると、今度はその子の前に座っていた青年がポケットからボールを取り出して、その子にそっと手渡したのです。実は、彼も相手チームの選手で、試合をスカウティングしていたのでした。そして、やはり男の子のために、わざわざクラブハウスに戻ってボールを取ってきたのでした。恐らく、彼はまだ20代前半の若手マイナーリーガーです。敵地のゲームにもかかわらず、相手チームのファンに温かく接する選手の姿を見て、「米国でスポーツ選手になること」の意味を噛みしめました。

スポーツ選手は、カーネギーやロックフェラーと同じ

 こうした行為を誰に言われるでもなく自然にできることが、米国におけるスポーツの社会貢献活動の根底に流れる価値観だと思います。日米を単純に比較するわけではありませんが、日本のスポーツ関係者からは、「選手はフィールド上でのプレーに集中することだけが自分の仕事だと思っている」という話をよく耳にします。

 選手にとって、フィールド外での活動は、練習や休息の時間を奪うため、試合でのパフォーマンスに悪影響を及ぼすと思っているのでしょう。ある意味での「職人気質」が、広報や社会貢献といった活動の妨げになっているわけです。

 なぜ、米国では慈善意識(Charitable Mind)が生まれるのでしょうか? 日本語で「慈善活動」を意味する「チャリティー」(Charity)という言葉は、「博愛」や「慈悲」を意味するキリスト教用語だったそうです。米国の人口3億人のうち、約8割がキリスト教徒だと言われています。キリスト教の特徴とされる「博愛」や「慈悲」「奉仕」の精神が、米国プロスポーツに見られる積極的な社会貢献活動の根底にあると考えることはできるかもしれません。

 社会貢献は、成功した事業家やプロスポーツ選手にとって、暗黙の了解として求められているのでしょう。鉄鋼事業で巨万の富を築いたアンドリュー・カーネギーは、「裕福な人はその富を浪費するよりも、社会がより豊かになるために使うべきだ」という信念から1902年に慈善団体「カーネギー財団」を設立しました。

 そして、カーネギーメロン大学やカーネギーホールの開設など、教育や文化でも幅広い慈善活動を展開したのです。「すべての人に無料の図書館を」という理念の下、全米各地で公立図書館設立を支援したことは、米国人ならば多くの人々に知られています。

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「プロ選手の心に根づく“カーネギーの教え”」の著者

鈴木 友也

鈴木 友也(すずき・ともや)

トランスインサイト代表

ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社、「トランスインサイト」代表。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)出身。スポーツ経営学修士。中央大学非常勤講師

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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