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「アメリカ製の幻想が、日本で一番うまく効いちゃった」

2008年9月29日(月)

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―― 都市が発展するには、ある種の運動神経が必要だ、と隈さんはおっしゃいました(第2回)。そういう意味で、うまく運動神経を発揮して、都市化できた街というのは世界にあるのでしょうか。

 パリですね。あれはナポレオン3世という1人のクレージーな「王様」が、19世紀という時代に偶然、権力を持ってしまった。しかもオスマンというこれまた天才的ともいえる実務的能力を持つ都市計画家と出会ってしまった。それらの要因が重なってできた都市です。

 あれが、ちょっとでも時期がずれていたら、ブールバール(放射状の大通り)や広場が整備された今のパリはなかった。21世紀の今もパリは世界の主要都市で、観光客の人気も高いわけですが、パリのおかげ、つまりナポレオン3世のおかげで、フランスという国は食べているようなものでしょう。タイミングといい、人材といい、パリは19世紀にまさしく神様が味方してくれて作られた、奇跡の街ですね。

養老 20世紀、21世紀の東京は味方してもらえなかったのかね。

 東京は大阪に比べたら、まだ緑が残っているぶん、マシだともいえるのですが。

―― 例えば、隈さんが「王様」になれたとしたら、東京をどういう街にしたいですか。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、「1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


 もう1回、東京を木造の街にしたいですね。都市建築を木造にして、そこら中に木を植えて緑地にする。木を不燃にする技術は画期的に進んできたし、リアリティは生まれつつあります。

 20世紀は石油とコンクリートという物質に規定された時代でしたが、それ以前の日本は木という物質と、そのスケール感にすべて規定されていたわけで、そこに戻ることができたら、日本はずいぶん変わると思います。

養老 緑のなさに関していえば、大阪はすごいよ。なぜ大阪はあんなに緑地がないのか不思議。中国風なんだよ。

 東京の緑地率は皇居があるから底上げされているわけで、大阪に比べて緑の割合が高いといっても、実感は薄いですけどね。

養老 大阪は商人の街で、日本でいちばん最初に民主主義化したところだから、皮肉な話、どこよりも先に「細民化」して、ああなったんですよ、やっぱり。

 まさにそうだと思います。

養老 都市と民主化というのは本当に難しい問題でね。

 すごく難しい問題で、ここでも運動神経が問われます。どのタイミングで民主化するかが決定的な決め手ですね。その意味で、今、面白いのは中国なんです。東京はすでに都市をデザインするというタイミングを逃したけれど、中国の都市はある意味、民主化が遅れた分、それがチャンスになる可能性を含んでいるわけです。

養老 逆説だね。都市の基本構造を現代の「王様」である中国政府がちゃんとつくることができて、その土台の上で民主化する流れになったら、もう東京なんて目じゃなくなりますね。だって東京に観光客が増えていると言っても、都市としての東京の魅力がどこまで持つか、僕は懐疑的ですから。

 東京に中国人観光客が激増しているといっても、それは東京のパブリックスペースが魅力的なわけではなく、伊勢丹の魅力だったりして・・・。

―― 外国人観光客には、秋葉原や下北沢の人気が高いと聞きましたが。

養老 だって、でかいビルなんて、上海の方がすごいもん。

 そうですよね。ですから東京にしても、ムラ的な場所に魅力があるということですよね。

―― 養老先生が日本を観光するとしたら、どこに行きたいですか。

養老 僕は過疎地しか行かないです。虫がいるところしか興味がない(笑)。でも、日本の村は今、猛烈な勢いでつぶれています。やっぱり暮らしにくいんですね、現実的には。

 現代の消費社会に慣らされた感覚でいうと、そう感じちゃいますね。


(写真:大槻 純一)

養老 そもそもムラこそ車がないと生き延びていけないですから。それと、女房に聞くとよく分かる。買い物をする場所がないとか、文化がないとか、女の人はいろいろ言います。その辺の女性の嗅覚、生き延びる感覚というのは、すごいものがありますよ。だから村には女の人が居着かないんですよ。居着いているのは、ばあさんだけだったり、という村がありますよ。

 それは逃げ遅れたのでしょう。

養老 そう、逃げ遅れたんです。でも、そうなったらそうなったで、女の人って平気なんだよね。案外、腰を据えちゃう。男はその点、まったくだめですね。ですから僕は、都市にしても、村にしても、女の人の配分というのが重要なんじゃないかな、と思います。

 女性の力をそう使うというのは、従来の都市政策にはなかった面白い視点ですね。

養老 農村に嫁が来ないという問題があるでしょう。それはその土地の価値を如実に表していると思います。都市計画で忘れられているのは、女の人の実感ですよ。何で男の建築家がつくるんだよ、とか思う。それこそラオスとかブータンとか、基本的に女権で動いている社会を見ると、その方が自然だと思う。

 女性の都市計画家が登場したら面白いですよね。女性はランドスケープ・デザインの分野はいっぱいいるのですが、都市計画は非常に少ない。

養老 でしょう?

 (4回めで論じた)超高層ビル群の1階に、どんな店がほしいかを見極めるには、女の人の感覚が必要ですよね。買い物としては、女性の方がプロなわけだから。

養老 だから組んでやるべきですよね。具体的なところは女性にまかせて、抽象的なところは男にやらせてもいいとか。もう、僕は家を建てるときにつくづく思い知っていますからね。箱根に建てた別荘だって、外側は藤森照信さんの設計かもしれないけど、中身は全部女房ですよ。僕の希望は何も言わなかったもの。屋根があって水が漏れなければいい、って(笑)。

 今、建築デザインの流れは、女性的なものを大事にするようになってきています。それは男の建築家が何かを設計するときでも、そういう感じになってきています。女性の建築家と男性の建築家の両方が、ともに女性的になりつつある、と僕は思います。

養老 ラオスのルアンプラバンって、変な土地なんですよ。メコン川とメコン川の支流が入ってきて、そこに細い鳥のくちばしみたいに飛び出した土地がルアンプラバンなんですが、通りが2、3本あってそれで終わりなの。その通りが全部露店というか、お店になっていて、座って店番をしているのは全部女性。一度見てみたら面白いですよ。

 男は何をしているんですか。

養老 男はたばこを吸っている。

 役に立たないということですね。

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「「アメリカ製の幻想が、日本で一番うまく効いちゃった」」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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