「養老孟司×隈研吾 「ともだおれ」思想が日本を救う」

ラオスから眺める石油主導文明のたそがれ

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2008年10月6日(月)

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――養老先生はマンション居住体験というものはお持ちでしょうか。

養老 娘が東京のマンションに住んでいます。でも1階ですよ。2階からは無視して考えて。


(写真:大槻 純一)

――1階というのは、父としてのアドバイスだったんですか。

養老 ええ。僕が1階にしろ、と言ったんです。

 僕の友達が大手のゼネコンに勤めているんですが、そいつがうちに来たとき、裏のお墓に行ったきり帰ってこないんだよね、30分も。しょうがないから見に行って、何をしているんだよと聞いたら、いや、ここにマンションを建てたらどうなるか考えていた、って(笑)。そういうやつに、お前はどこに住んでいるんだ、と聞いたら、普通の家だよ、なんて答えた。

 マンションじゃないんですね。

養老 そう。マンションに住まないのかと聞いたら、「冗談じゃない、何か起こったときに飛び降りられない家には住まねえよ」って。それを聞いているから、僕はマンションも1階しかすすめない。そもそも、エレベーターが嫌いなの。閉所恐怖症なんですよ。あれが真っ暗になって止まっちゃったらどうしよう、といつも思うから、エレベーターに乗りたくないんですよ。

 何か原体験があるんですか。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、「1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


養老 それはちゃんと理由があるんです。東京大学の解剖学教室って実習室が3階なんですよ。で、死体置き場が地下で、エレベーターで4階分上がらなきゃいけない。そのエレベーターが非常に古いんですよ。メンテをちゃんとやらないと、しょっちゅう壊れるの。そうすると死体を運んでいる途中でエレベーターが止まる。

 それは嫌ですね。


(写真:大槻 純一)

養老 2人きりで何十分も(笑)。

 スティーヴン・キングどころじゃないですね。リアルホラーですね。

養老 だから俺は嫌いなんだよ、エレベーターは(笑)。知ってますか? イスラエルに住んでいる友達がいるんだけど、正統派のユダヤ教徒って、安息日はエレベーターのボタンを押してもいけないんですって。

 へえ。

養老 そういうやつが住んでいるマンションはどうなっているかというと、各階止まりの自動運転。エレベーターが来るまでじっと待っているんだよ。

 受け身であればいいんですか。

養老 そうなの、押さなきゃいいんだよ。機械が勝手に動いているんだから。


(写真:大槻 純一)

 エレベーターが出始めたころのものなんですけど、ベーレンスというドイツ人の建築家がデザインした、ヘキストという会社のエレベーターは、観覧車みたいにずっと動いていたんですよね。自動的に回っているだけ。そこにみんな飛び乗るんです。今でもヘキストの工場では、それを使っているんですよ。

養老 日本だったら即座に苦情が来て、使用禁止だよね。

 エレベーターは一種の閉所だからね、恐怖症を呼び覚ますんですよ。オープンの方がずっといいのに。僕はコスタリカで木から下りる原始的なエレベーターを楽しんだけど、すごい気持ちよかった、ぴゅーって。片手で縄をブレーキにするんだけど、あんまりブレーキ利かせると途中で止まっちゃうし、加減が難しい。

 そんな養老先生が設計した都市というのに住んでみたい気がします。

養老 そうしたら僕、例えば池袋サンシャインシティから新宿駅までロープを張ります(笑)。上がるのはしょうがないからエレベーターで上がってもらって、下りるときはロープをつたってぴゅーですよ。

 いいですね。

養老 安いでしょう。エネルギーがいらないもんね。東京には六本木ヒルズとか、同じ敷地内にビルがいくつも建っている場所があるでしょ。そういうところは、ビルとビルの間にロープを張って、それをつたって移動すれはいいんだよ。

――毎日が「ダイハード」で「スパイダーマン」ですね。

 身体感覚としてはすごく新鮮。そういうことを発想したことはなかったな(笑)。

養老 東南アジアや、中国、台湾はみんな高層の集合住宅が好きでしょう。やってくれないかな。

 日本はエレベーターのメンテナンスの価格がものすごく高いんです。だから高層の集合住宅の場合、エレベーターはたったの一箇所で、その脇にだーっと長い廊下があって住戸が並ぶスタイルが日本では基本になっちゃったんです。ところがあれは、世界ではすごく異常なスタイルなんですよ。

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このコラムについて

養老孟司×隈研吾 「ともだおれ」思想が日本を救う

 環境問題に代表されるいまの社会のさまざまな課題は、「生き物」としての私たちが、合理性、均質化、分業による効率の追求に耐えきれなくなってきた、その表れなのではないか? 偏ったバランスを、カラダの方ににちょっと戻すためにはどうしたらいいのか。
 現代人は「脳化社会」の中に生きていると喝破した養老孟司氏と、ヒトの毎日の環境である住宅、都市の設計を行う建築家の隈研吾氏が、次のパラダイムを求めてゆったりと語り合います。

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