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「負ける建築」が「ともだおれ」できる都市を生む

  • 清野 由美

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2008年10月14日(火)

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(前回「ラオスから眺める石油主導文明のたそがれ」から読む)

 鎌倉の養老邸から場所を移して、東京・青山にある隈研吾建築都市設計事務所のオフィスへ。オフィス4階のテラスに設置されたガラス張りの応接室から、夕暮れの薄闇に浮かぶ東京が見渡せる。


対談の行われた事務所のペントハウスは窓が広く、都心の景色がよく見える(写真:編集部)

養老 このオフィスは、えらく開放的ですね。そういうふうに隈さんがつくったんですよね。

 この4階のテラスは屋上になるのですが、普通は屋上というと、エアコンの屋外機置き場にされがちなんです。ここでは屋上テラスにガラスの箱のような空間を置いて、屋外機はさらにそのガラスの箱上に載せるようにしたんで、こんなに開放的にできたんです。

養老 こちらのオフィスはずいぶん以前から使っているんですか。

 6年ぐらい前からですかね。大家さんは隣りにあるお寺の「梅窓院」なんです。そこの住職さんが、話の分かるいいご住職だったおかげで(笑)。

――養老先生の鎌倉のお宅も、海蔵寺というお寺さんですね。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、「1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


養老 あれは、それほどいい住職じゃないかも(笑)。この間、鎌倉の知人で、ロシア社会論の袴田(茂樹)さんが面白いことを言っていましたね。ロシアのサンクトペテルブルクに皇帝が作った真っすぐな道があるんだけど、それが1カ所だけ曲がっている、と。それは、皇帝がこういうふうに道をつくれ、と線を引いたときに、手が弓か何かに当たって曲がってしまい、その通りになった箇所だということで(笑)。隈さんも、そんなことはありますか。

 いかにもロシア的なジョークですね。ロシア皇帝と同じ状況で建築を作ることはありませんが、僕は、設計のときになるべくスケッチをしないようにしているんです。

養老 ほう、それはどうして?

 線ってすごく重みがありますから。僕が何かつまらない理由で引いた線も、スタッフの立場になると、ボスが引いた線だから、一応それを尊重しないとダメじゃないですか? 線を引くときなんて、今の弓の話じゃないけど、実はつまらない理由で曲がったりすることは、いっぱいあるんです。

養老 やっぱり(笑)。

 5~6人の人数でしゃべりながら、イメージを共有していくことが、僕にとっては一番いい。「だからこんな感じでさ」と僕が口で言うでしょう。それをスタッフが線にしたものを見て、「あ、これだよ、これ」とか、「ここ、もうちょっと」とか、ゆるやかに会話を重ねていくことが僕のやり方なんです。

養老 そうはいっても線を引かないと図面はできないでしょう。

 いつかは線の引きます。線って怖いんです。自分で線を書くと、それこそ皇帝の指示ではありませんが、それが絶対になっちゃいますから。

養老 隈さんのやり方は、ほかの建築家にも共通するんですか。

 いえ、スタッフにすごい立派な紙と筆記用具を持ってこさせて、こうしろ! という神様スタイルで通す人もいます。

養老 でもそれだと現場は硬直化するだろうね。

 巨匠というのは、そういう伝説を持っている人が多いんです。

 相手に有無を言わさず、指示だけ出して消えちゃう、みたいな類の逸話。図面に限らず、現場にしても、本人はめったに現場には行かなくて、行くときはスタッフと作業員全員を整列させて、お迎えしないといけない。そうしないと機嫌が悪くなっちゃって、という人もいました。

――『白い巨塔』の総回診みたいですね。

 ある巨匠の事務所は、クライアントへのプレゼンじゃない、単なる社内プレゼンのために、スタッフが膨大な時間と手間をかけるので有名でした。クライアントに見せる前に、まずその先生からご許可をもらえないと話が進まないんです。僕はそういうことはバカバカしいし、嫌だな、と思います。

――お医者様の世界も、ありがちではないですか。

養老 いや、僕は、そういうのは大嫌いだから。ただ、僕の先生は「『白い巨塔』なんて、あんなものはウソだ」とか言っていたんだけど、医学部長になってしばらくしたら、「やっぱり本当だったよ、あれ」って言ってたね(笑)。

 リアリティがありますね(笑)。

養老 だから、僕が選択した基礎医学、しかも解剖学なんてのは、そういうのに何の関係もなかったので、よかったです。

――建築家の先生がそうなる、というのは、隈さんとして理解できるところはあるんですか。

 建築というのは、何10億、何100億円というお金が動いて、やはりすごく大きな決断を必要としますから、その決断を権威付ける必要性はあったんじゃないかな。人って、あんまりカジュアルな人間にカジュアルに命令されても、従う方はその気にならないでしょう。アイディアを出すときは違いますが、クライアントに対して「この案は雑談でできました」みたいなことを言っても、なかなか受け入れてはくれないですから。

養老 それは金が取りにくいよね。

 そうなんです。

養老 医学界でそれに近いのは、冗談を言いながら手術していると患者が怒る、ということかな。

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