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日本にノーベル賞を出すもう1つの理由

カビボ博士への授賞見送りと金融恐慌・研究費国際分担バランス

2008年10月15日(水)

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 いきなりの株高です。「乱高下」の「高」というべきかもしれません。米国発の金融不安は瞬く間に各国に波及し、日本でも大和生命保険破綻など、実体経済に影響が出始めています。ブッシュ政権最末期の米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除、パワーバランスにも明確な変化が出始めました。

 そんな中で発表されるノーベル各賞には、「明るいニュース」という観点とは別に、リアルな現実を直接反映する側面が存在しています。たとえばプリンストン大学のポール・クルーグマン教授への経済学賞。露骨といえばこれほど露骨な授賞はありません。

 国際貿易という専門での業績とは別に、クルーグマン博士は金融危機を招いたブッシュ政権への歯に衣着せぬ発言で知られ、「恐慌の罠」「嘘つき大統領のデタラメ経済」などの著書もあるというツワモノです。

 私個人的には、イラク戦争にいたる外交失政から社会保障の切捨て、格差拡大への警鐘など、クルーグマン博士の主張には大いに首肯するところが多いですが、欧州の学術格付け機関であるノーベル賞(正確にはアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞)を出すというのは、政治カードの一つといわざるを得ません。これについては別の回に取り上げたいと思いますが、欧州のお墨付きを得たクルーグマン教授がノーベル経済学賞受賞者として「先週よりも幾分安心している」「公的資金を活用する包括策で合意した欧州首脳の行動」を評価、米国の景気後退が長引くことを懸念しつつ「おそらく破綻はない」との見方も明らかにし、それが市場に情報としてもたらされる。因果関係はさておき、これと平行して株価も上昇するというのが、受賞翌日の10月14日に観測できる現実です。

 日本で言えば、佐藤栄作氏が平和賞を貰っていることから明白なように、ノーベル賞はリアルな政治や経済と密接に結びついています。文学賞など文科系3賞についてこの観点が浸透していますが、どうして科学3賞について、そういう見方がなされないのか? その理由には、社会のサイエンスリテラシー(科学への批判的判断力)水準が深く関係していると思います。

LHC巨大加速器の始動

 9月10日、スイスのフランス国境近く、ジュネーヴ近郊にある欧州原子核共同機構(通称CERN)で、素粒子実験のための「加速器」が運転を開始しました。LHC(Large Hadron Collider)「大型ハドロン衝突型加速器」です。全周27キロメートル。地下でフランスとの国境をまたいでいます。これがどれくらいバカでかいかと考えると、東京のJR山手線の全周34.5キロメートルと比較すると分かりやすいでしょう。要するに、東京都心部全体と同じくらいの敷地の地下で、互いに反対方向に回転する陽子のビームを7テラ・エレクトロンボルトまで加速して正面衝突、破壊させ、その壊れ具合から素粒子の内部構造を知ろうという装置です。エレクトロンボルトというのは1個の電子を1ボルト加速するエネルギー、テラは10の12乗=1兆倍ということで、7兆と7兆が正面衝突するので最大のインパクトは14兆エレクトロンボルト。このすさまじいエネルギーで陽子を破壊して、物質の究極の構成要素を調べるというとてつもない実験です。

 稼働11日目の9月20日に事故が発生してLHCは運転を停止し、現在は点検作業に入っているとのこと。実験再開は2009年にずれ込むだろうとの見方が伝えられています。

 しかし、この最新最大の装置で検証しようとしているのが、40年以上前の物理であることは、あまり強調して報道されていません。

「質量の起源」ヒッグス機構を準備した南部博士

 LHC実験で期待されている最大成果の1つは、物質になぜ重量(質量)があるかの起源を説明する「ヒッグス粒子」の発見です。2008年現在、「ヒッグス粒子」だけが、素粒子の標準理論で唯一発見されていません。

 物質に質量をもたらす「ヒッグス機構」を、エディンバラ大学のピーター・ウォルター・ヒッグス(1929-)が「弱電相互作用理論における対称性の破れ」として定式化したのは1964年、東京オリンピックの年に当たります。

 ちなみにこの頃、私は胎児でした。それがイイ中年のおっさんになっている現在、まだヒッグス粒子は実験的に検証されていません。実験に必要なエネルギーがバカでかすぎ、装置が建設できなかったのです。正確には1980年代末にはほぼ可能だったものが、冷戦の崩壊と共に軒並み先送りされたことが大きく関係しています。これも深刻な問題で、回を分けて次回に記すようにします。ヒッグス教授は2008年現在も健在で、まごうことなく自然科学史上最大の謎を解いた大物理学者ですが、いまだヒッグス粒子も発見されておらず、(状況証拠的には、ほぼ存在は確実ですが)ノーベル賞は受賞していません(前回ご紹介した中国人女性実験物理学者呉健雄教授が受賞した「ウルフ賞」は受けています)。

 さてここで、ヒッグス理論の「弱電相互作用理論における対称性の破れ」を見て、読者はお気づきになることがないでしょうか…「対称性の破れ」そうです。ヒッグス理論(1961)は南部陽一郎教授の「自発的対称性の破れ(1961)」がなければ、成立しえないものでした。今回の南部先生の受賞を、LHCの稼働で近々発見が期待される「ヒッグス粒子」とピーター・ヒッグス教授へのノーベル賞授賞と関連づけて考える見方があります。

 ヒッグス教授の成果は本当に偉大なものです。しかしピーター・ヒッグスの仕事は、ヨウイチロウ・ナンブの革命的な貢献なくしては、絶対に存在しえないものです。南部先生のアタマ越しにヒッグス先生だけにノーベル賞を授与したら、ヒッグス教授は間違いなく「大してうれしくない」などと発言するに違いありません。それは大変に居心地の悪いことだからです。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長