「養老孟司×隈研吾 「ともだおれ」思想が日本を救う」

いま金持ちがなすべきこと、してほしいこと

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2008年11月10日(月)

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(前回「計算上は正しい。でもそうは見えない」から読む)

――今、東京にいるお金持ちは、例えば六本木ヒルズの上層階に住むという発想はあっても、青山墓地ぐらいの土地を買い占めて、そこを森にして小さい屋敷を建てて、あとはほったらかしの空き地にする、ということはしません。お金があるのだったら、いっそのこと、そっちを考えてほしいと思うのですが、いかがでしょうか。

養老 ロスチャイルドだな。ロスチャイルド家のばあさんが、イギリスに50ヘクタールの庭を持っていてね。そこでシフゾウ(注・四不像Elaphurus davidianus)というシカを飼っていたんですよ。シフゾウは原産地で絶滅しちゃって、清朝の庭だけで増えていたという伝説のシカでね。そいつを放して200頭になっていたというんだけど、面白いでしょう。そこにぜひ虫を取りに来なさい、と僕は許可をもらったんですよ。結局、行けなかったんですけどね。

 で、前にそのばあさんが日本に来たときに、かやぶきの屋根が好きだという話になってね。「かやぶき屋根は大好きなんだけど、あれはお金が掛かってしょうがないわね」と言うから、僕はちょっと不審に思ったわけ。だって、いくら手間がかかるといっても、ロスチャイルドだったら、そんなの安いものでしょう? そうしたら、「いや、私はかやぶき屋根の家を40軒持っているから」という話で(笑)。

 その村に行って、僕は初めて分かりました。村全体がかやぶき屋根なんですよ。つまり、村1つを維持しているの、ロスチャイルドは。そのぐらいのこと、日本でも誰かがやらないかな。

養老さん

養老 孟司(ようろう・たけし)

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞)『唯脳論』(青土社)『人間科学』(筑摩書房)『バカの壁』(新潮社、毎日出版文化賞)『死の壁』(新潮社)など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評、文芸時評までを手がける。本サイトにて「タケシくん虫日記」を連載中


隈研吾さん

隈 研吾(くま・けんご)

建築家。1954年生まれ。1979年に東京大学工学部建築学科大学院を修了、「1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。97年に日本建築学会賞を受賞(宮城県登米町伝統芸能継承館「森舞台」)。99年、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授に就任。2001年、理工学部教授に就任。主な著書に『負ける建築』(岩波書店)、『隈研吾:レクチャー/ダイアローグ』(INAX出版)、今回のインタビュアー、清野由美との共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)がある


隈 同感です。

養老 過疎地に行ったら十分できますよ。それこそ伊勢神宮みたいに20年ごとにつくり直すとか。

隈 そうですね。六本木ヒルズのあのワンフロアを借りるんだったら、村の40軒なんて楽々維持できますよね。

養老 日本だって、昔はそういう実業家はいましたよ。今は昔に比べてお金持ちに対する社会的プレッシャーが、非常に大きいんじゃないかな。そういう風潮の中で、何かと目立つことはできないようになっているじゃないですか。

隈 金持ちが本来すべきことが、かえってできないから、見えないマンションの中に入っちゃうんです。

養老 日本人って、江戸時代には着物の裏に凝ったでしょう。そういう感性がそもそもある人たちなんだけど。

――養老先生だって、お金持ちのお1人じゃないですか。

養老 全然ないよ、あったら使っちゃうもん。

――何に使っていらっしゃいますか。

養老 箱根に建てた「バカハウス」。外壁に南伸坊がウマとシカの絵を描いた。

――大ベストセラーの『バカの壁』(新潮新書)でお建てになられたという。

養老 あとは東南アジアの虫。だから金なんてないよね。

隈 スティーブン・スピルバーグのロングアイランドの別荘を見せてもらいましたが、普通の民家を移築してきたものを「The Barn(納屋)」と名付けていて、湖の対岸の家も全部買っちゃっているから安心だって。対岸の景色がそのまま変わらないということで、家でなく景観を買っているんですね。

養老 僕らのように、墓地の隣に家やオフィスを構えるようなものですよ。

――隈さんもそういう物件を手がけたいと思われますか。


隈さんの事務所は東京・青山「梅窓院」の隣にある。このお寺が大家さんだ(写真:編集部)

養老 アマンリゾートなんかは、周りの景色込みで買うって有名でしょう。

隈 そういう視点がある人と仕事をするのは楽しいです。アマンを始めたのはエイドリアン・ゼッカという人物ですが、彼はもともと『タイム』『ライフ』の極東支配人をやっていた人間で、ものごとをグローバルな視点で客観的に見る価値が、ちゃんと分かっていた。ジャーナリズムからスタートした人ならではの、新しいリゾートの定義なんですね。

養老 それは必要な視点だよね。

――隈さんは新潟県高柳の環状集落のプロジェクトも手がけておられますが、あれはまさしく環境込みという感じです。そういう意味で、都市よりも地方の現場が面白いということはありますか。

隈 高柳は面白いプロジェクトでした。でも、地方にしたって、自分たちの足元の価値、もしくは建築、景観の価値を正確に分かっているかというと、分かっていない人の方が多い。世界の中でかやぶきにどんな価値があるかを客観的に知る人は、とても少ないです。建物1つについて議論することはできるかもしれないけれど、環境の全体像をデザインできる人は、都市も地方も、まだまだ少ないですよ。

――隈さんのクライアントにロスチャイルドさんもいらっしゃったんじゃないですか。

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このコラムについて

養老孟司×隈研吾 「ともだおれ」思想が日本を救う

 環境問題に代表されるいまの社会のさまざまな課題は、「生き物」としての私たちが、合理性、均質化、分業による効率の追求に耐えきれなくなってきた、その表れなのではないか? 偏ったバランスを、カラダの方ににちょっと戻すためにはどうしたらいいのか。
 現代人は「脳化社会」の中に生きていると喝破した養老孟司氏と、ヒトの毎日の環境である住宅、都市の設計を行う建築家の隈研吾氏が、次のパラダイムを求めてゆったりと語り合います。

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