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ノーベル賞と戦時巨大科学の暗闘(下)

核・宇宙開発・ITと「ソ連に亡命」した原子物理学者の死

2008年10月24日(金)

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 (前回から読む)

 友人のV.Bは夫婦で世界銀行のエコノミストをしていますが、実は元来、旧ユーゴスラヴィアの共産貴族の師弟でした。

 というより、チトーと共に戦った救国の英雄の息子で、凄まじいエリート教育を受けた有為の人材で、冷戦末期から欧州~米国で巨大企業に勤務していましたが、チトーの没後、身の安全も考慮して夫婦ともに世銀に移りました。奥さんは、今私たちが使っているインターネットの基本プロトコルを作ったシステム・エンジニアの1人ですが、現在は世銀のエコノミストとして開発経済投資の評価をしています。

 B夫妻のように国境、というより東西の壁まで跨いで、国際経済システムの安定化と持続的な成長の問題に取り組む、凄まじく優秀な頭脳と強靭な胆力の持ち主が、国連や世銀、あるいはEU本部近辺にも、大変な数存在しています。そうした人材層の向かう方向性を評価、指針付けする意味合いを、ノーベル経済学賞は持っていると私は考えます。

むしろ授賞後の活躍が期待されるノーベル経済学賞

 書斎に引きこもって優秀な経済学のモデル論文を書くことと、ノーベル経済学賞の授与とは、やや意味あいが異なります。これを、純粋な学術業績ではなく別の意図、と批判することも可能でしょうが、現実の授与傾向を見ていると、とりわけこの10年来、スウェーデンサイドの考えていることが非常に明確に分かります。

 ノーベル平和賞には過去の業績と並んで、今後の活動に期待するという授賞理由が記されていますが、むしろ近年それを強く思うのが経済学賞のように思われるのです。

 2008年の国際金融不安の収拾のため国連がジョセフ・スティグリッツ教授をヘッドにタスクフォースを組むのは、まさに適材適所と思います。スティグリッツ博士はすでに世銀の主席エコノミストから上級副総裁も務めており、グローバル・システムとしての経済に「ともかく景気回復が一番だ!」式の腹芸や山勘ではなく、適切な形で、異なる原理の数理モデル群も駆使しながら、妥当な対策を立ててゆくチーフとしての、能力と胆力を具備しているからです。

 ここでスティグリッツ博士が「ノーベル賞学者」であることは、国際的ブランド的な「安心」つまり「信用」形成に非常に役に立っています。

 干支で一昔前であれば、スティグリッツ博士はクリントン政権の経済諮問委員長でした。もし「米国大統領の経済ブレーン」に「米国発の金融恐慌の収拾」を任せる、という情報が市場にもたらされるなら、同じ能力を持つ有為のスティグリッツ氏でも、不安収拾の効力に限界があるかもしれません。

 世銀を経てノーベル賞という、世界のバランスをきちんと見切れる人物としての、欧州からのお墨付きを得ていることには、小さくない意味があります。

 今年ポール・クルーグマン教授が「ノーベル経済学者」になったことは、すでにIMFや世銀、さらにはEC委員会でもエコノミストを務めているクルーグマン博士に、他のノーベル賞受賞者と共に、米国一国の収拾ではなくグローバル経済システム全体の危機回避と、経済成長の回復に向けて、北欧~EU(欧州連合)さらには国連機関を含め、国境を越えた活躍を期待する、非常に明確な意図があるように思われます。

 クルーグマン教授への授賞はまた、結果的に米国向けに「経済の民主党」オバマ政権に向けての、欧州としての明確なラブコールにもなっているわけですが、その明確な動きが米国、しかも共和党側からも出てきました。

 「サー」コリン・パウエル(彼は英国からナイトの爵位を、日本からは勲一等旭日大綬章を受けています)の「オバマ支持」表明は、共和党側カラード(有色人種)層に、かなり絶大な影響を及ぼすと思われます。

パウエル~ライスとオバマを結ぶ点と線

 ノーベル賞が極力武力を回避しながら国際紛争の解決を目指し、諸民族の融和推進を念頭に置いていることは紛れもない事実です。米ソ両大国の緊張が高まる中、欧州が中心となって旧植民地を独立させ、国連に「議席の大票田」を作ったのも、「国連での多数決」に地球上に存在する人間数の比に近い多数決によって、超大国の暴走に抗ってゆくという明確な理由がありました。「アフリカの年」と呼ばれた1960年、17の国が独立し、南アフリカ共和国の黒人解放運動指導者アルバート・ルツーリ ・アフリカ民族会議議長が、黒人として初めてノーベル平和賞を受賞したのも、こうしたパワーバランスの中でのことです。

 これと期を合わせて米国で公民権運動が起き、米国での指導者マーチン・ルーサー・キングが文学賞のジャン・ポール・サルトル(サルトルは受賞を拒否)と共にノーベル平和賞を受けるのは東京オリンピックの開かれた64年のこと。この時27歳のコリン・パウエルはニューヨーク市立大学で地学を学んだ(1954)後、ベトナム戦争に従軍しており、コンドリーサ・ライスはアルマ・パウエル夫人の父が校長を務める学校で学ぶ、コンサートピアニストを目指す10歳の少女でした。

 ちなみにライス氏はその後クラシック音楽から政治に転向するわけです。彼女のように、優秀な音楽家でありながら、人種によって音楽活動の場を制限されている人々に、可能性を提供する仕事が、政治家への転身などに一切興味のない私の、音楽本業での主要なテーマの1つにほかなりません。

 パウエル氏のオバマ支持は、現在は立場上、意見表明できないでしょうが、ライス氏の意向とも明確に重なるものと言えるでしょう。日本はパウエル氏、ライス氏などの強力なイニシアティヴのもとTICAD(アフリカ開発会議)などでアフリカ援助に門戸を開きつつ(予算を割きつつ)あります。

 11月の選挙でのオバマ候補の得票いかんにかかわらず、これから日―米―EU-アフリカ関係で取り組むべき現実課題は明確で揺るぎないことが、クルーグマン博士へのノーベル賞に続いてパウエル氏のオバマ支持で、さらに明確化されています。アフリカの話題は深く重大ですので別にお話ししますが、こうした流れを押さえたうえで、堅実な仕事をするのが重要だと思っています。

ハリウッド映画に見る冷戦時巨大科学競争

 米国大統領選挙は巨大なアジテーション合戦にほかなりませんが、今年米国では長年ヒットしている2つシリーズ映画の新作が封切られました。1つは「007 慰めの報酬 」(Quantum of Solaceという原題は「慰撫の量子」とでも訳すべきか)、そしてもう1つは「スター・ウォーズ」シリーズのアニメーション「クローン大戦」。007もスター・ウォーズも、どちらも冷戦期の米国を代表するハリウッド映画と言ってよいでしょう。

 007シリーズの第1作「ドクター・ノオ」(1962)は、前回のおしまいに触れた「キューバ危機」と軌を一にする作品です。以後毎年「ロシアより愛をこめて」「ゴールドフィンガー」「サンダーボール作戦」と米国主体のスパイ映画が公開されヒットします。この時期、宇宙開発でソ連に後れを取った米国は、冷戦映画に間違ってもロケットなど登場させません。米国としてはここでは勝ち目がないので、目をそらせておきたいところだったでしょう。

 ちなみにキューバ危機の直後に作られた、原水爆の誤射によって地球が壊滅するというスタンリー・キューブリック監督の米国=英国映画「博士の異常な愛情」の原題「ドクター・ストレンジラヴ または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」が「007ドクター・ノオ」のパロディであることも、邦題だけ見ていると分かりにくいところです。

「アポロ計画」成功と競争の終焉

 この「キューバ危機」を乗り切った後も、ソ連では初の女性宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワが「私はカモメ(ヤー・チャイカ)」と世界にメッセージを送るなど(1963)、一貫して優位を印象づけます。米国はアポロ計画に命運を懸けますが、67年のアポロ1号はヴァンガード以来のまさかの大失敗、打ち上げ時爆発による全員殉職という最悪の結果となります。

 そんな中での69年、ニール・アームストロング以下アポロ11号の宇宙飛行士による、待望の月面着陸は、米国が宇宙開発でソ連より優位に立つことをアピールする決定的な意味がありました。

 これ以後アポロ計画は、米国インフレの過熱化とベトナム戦争の膠着化とともに漸次規模縮小され、ニクソン・ショック、変動相場制移行、ウォーターゲート事件など、揺れる社会経済の中でベトナム戦争が最終終結する75年に収束(予算が終了)します。

 そして映画「スター・ウォーズ」の第1作が封切られるのはその2年後の77年のことでした。以後スター・ウォーズシリーズは「帝国の逆襲」(1980)、「ジェダイの復讐」(1983)と続きますが、この後1997年まで制作されなくなります。この14年のギャップの間に、ソヴィエト連邦が崩壊し、東西冷戦構造は消滅してしまいます。

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