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KY空幕長の国益空爆

不用意な情報発信は危機管理意識の死角から

2008年11月5日(水)

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 この記事がオンエアされる日本の11月5日は、米国は大統領選挙の真っ最中に当たります。そこで今回は大統領選挙と金融不安対策を、一連のノーベル賞の話題とも関連づけてお話しよう…などと思っていたところ、トンでもない話が降ってきました。

 航空自衛隊の田母神俊雄・前空幕長の「論文」と「更迭」の問題です。ちょっと調べてみて、これは触れないわけには行かないと思いました。先に結論を言えば、不用意かつ「あなた任せ」の情報発信は危機管理意識の欠如としか言いようがなく、KY=「空気読めない」自衛隊最高幹部が日本の国益を空爆しているのと変わらない。ノーインテリジェンスです。いかにそれが無思慮かつ丸腰か、ポイントを具体的に指摘してみましょう。

「定年退職」で済む問題か?

 田母神氏の処遇をめぐって防衛省は大揺れしたとのことですが、3日の夕刻、結局「定年退職」という形に落ち着きました。懲戒もなく、役場にとって最も「傷の浅い」収拾策が取られたとのことで、数千万円に及ぶ退職金も支払われるようです。

 明けて4日、防衛省は増田次官以下に減給などの処分を下すほか、浜田防衛相も閣僚給与の一割を自主返納、麻生総理も「再発防止」を厳重に指示しましたが、当の田母神氏は3日夜に読み上げた「退職にあたっての所感」の様子を見る限り、問題の本質的ポイントを一切理解していないように見えます。田母神氏の主張は「自分は信念を持って正しいことを言ったのだ」という一点に尽きていますが、軍の指揮系統下にあって下僚が勝手に信念で上官の方針に背いているという実態や、それが引き起こす想定外のリスクなどに全く気がついていません。

 防衛省は給油法案など「連休明けの国会審議」あたりを気にしての処理と報道は伝えていますが、今回の問題の本質はそんなところにはありません。

 見出しでは「KY」などと軽い表現をとりましたが、この問題はサンフランシスコ講和条約以来の日米関係に影響を及ぼしかねない「国難」だったことを、どれほどの関係者が理解しているのか、疑われます。厳重な再発防止のためにも、今回の件、そしてそれが今現在も持っているリスクまで含め、細かに検討する必要があると思います。

事実経過から

 そもそも、11月3日、最後まで無届で行われた「退職記者会見」で「これほどの大騒ぎになるとは予測してなかった」と語っているところで、すべて致命的なのですが、まずは順番を追って考えてゆきましょう。

 不動産関連企業アパグループは10月31日今年5月10日から「『真の近現代史観』懸賞論文」の募集を行い、渡部昇一氏を審査委員長として230通超の応募作を審査の結果、田母神俊雄氏(60 航空幕僚長)の「日本は侵略国家であったのか」を「最優秀藤誠志賞」に選出、懸賞金300万円と副賞として全国アパホテル巡りご招待券を授与すると発表しました。

 田母神氏の「論文」は「我が国が侵略国家だったというのはぬれぎぬだ」として、旧満州・朝鮮半島の植民地化や第2次大戦での日本の役割を正当化し、集団的自衛権の行使を禁じる現行憲法に疑問を呈する、現在の政府見解を否定する内容でした。

 防衛省詰めの報道各社に報道発表文が配布されたことから事実が明るみに出、政府は事態を重く見て直ちに対策を協議、浜田靖一防衛相は31日夜、田母神氏の更迭を決め、深夜の持ち回り閣議で航空幕僚監部付とする人事が承認されました。

戦後50年目に確立された「村山談話」

 現在の日本国政府の、この問題に関する正式見解は、第2次世界大戦終結から50年目にあたる1995年8月15日、当時の村山富市首相名で発表されたいわゆる「村山談話」が採用されており、麻生太郎首相も就任早々これを踏襲する旨を明らかにしています。念のため村山談話の当該部分を引用しておきましょう。

 「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

 「敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に、わが国は、唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。」

弛みきった軍紀こそ最大の問題

 多くの報道が「田母神論文」の内容についてすでに批判していますので、ここではそれを繰り返すのではなく、やや異なる2つの指摘をしたいと思います。連載をご覧の読者はご存じのように私はかなり徹底したハト派ですが、建設的な批判は相手の立場に立たなければできません。大学で教養学部の1年生などを教えていると、いろいろな考え方の学生がいます。教師である私とは立場の違う意見の学生も多いですが、指導するときには、相手の立場に立って話さないと教育的効果がありません。それと一緒にするようで恐縮ですが、私自身が今回は防衛当局の立場に立ったものとして、以下の議論を進めたいと思います。

 田母神氏の第一の問題は、政府、防衛省の観点から見るとき、危機管理体制としての情報統制が全くとれていないことです。これをまず指摘しなければなりません。

 昨年の2月、私はNHKの「地球特派員」という番組の取材でアメリカ、ノースカロライナ州フォートブラッグ基地に体験入隊して、インタビューや訓練参加などしたのですが、そのときの軍人たちの、発言への気の張りようは大変なものでした。

 彼らの最高司令官は大統領である「ジョージ・ブッシュJr.」で、その施策へのあらゆる論評は「軍務規定違反」とされ、職位を失う理由とされてしまうからです。憲法の保障する個人の内心の自由とともに、軍人としての宣誓=契約と義務の履行への強い意識は、大変印象的でした。

 ところが今回の田母神氏のケースでは、空幕長という責任ある立場にある者が率先して防衛省の内規をおろそかにしており、しかもそのけじめ、歯止めが完全に不在、まったく無自覚であることを露呈しています。

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