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なぜ文民統制は繁栄を導くのか?

自由と民主主義の有り難さを考える

2008年11月19日(水)

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 2008年度ノーベル化学賞を受賞したカリフォルニア大学サンディエゴ校のロジャー・チェン教授が「私は中国人ではない」と発言したことは一部で話題になりました。

 中国系の両親の元、米国で生まれたチェン教授には、あらゆる意味で自分が「中国人」という意識がありません。先に合衆国憲法修正第14、15条を引用した通り、米国内で生まれた者は、人種その他の区別なく等しく「米国人」とされ、あらゆる権利を平等に享受できることを合衆国憲法は謳っています。現実の米国社会は様々な矛盾を孕んでいますが、バラク・オバマ上院議員の大統領当選はいろいろな意味で時代を画するものになりました。

 多くの場合「白人」とされるオバマ氏の母方を辿ると、純粋なネイティヴ・アメリカンのチェロキーにも行き当たるそうです。ケニア、アイルランド、いわゆる「インディアン」…様々な人種の「るつぼ」を一身に具現したオバマ氏が選挙戦を征した、その効果がどのように出てくるのか、慎重に見守りたいと思います。

 華僑系のチェン教授は明らかに「米国人」です。もし中国系の合衆国大統領が誕生したら、米国、中国と台湾はいったいどのような外交交渉を展開することになるでしょう…? ほんの少し前なら夢物語と一笑に付されたかもしれない、こんな想像が、決して現実離れしたものではなくなりました。「オバマ当選」が持つ意味は予想以上に多岐にわたるように思います。

選ぶ国籍、捨てる国籍

 台湾系のチャイニーズ・アメリカンにとって、メインランド・チャイナ(中華人民共和国)は全く縁のない国です。第2次世界大戦後、蒋介石に従って台湾に移った漢民族「客家人」にとって、本来の「故郷」は中国本土に違いありません。しかしルーツの「場所」(国土)と、そこで成立する「政権」(国家)とは明らかに違います。

 米国の音楽家ジョージ・ガーシュインもレナード・バーンスタインも旧ロシア帝国から米国に移住したユダヤ人の子弟ですが、彼らが生きた時代のソビエト政権とは一線以上を画しました。でも今日本で、米国籍を取得した南部陽一郎博士がノーベル賞を受けたと言う時、こうしたシリアスな話を見かけません。

 すでに多くをお語りにはなられないでしょうが、南部先生は三島由紀夫が市谷で自衛隊の蜂起を呼びかけて割腹自殺を遂げた1970年、49歳で米国籍を取得され、日本国籍を棄てられています。

 戦時中は陸軍で研究に従事した南部陽一郎という国際的に第一級の科学者が、齢50歳前にして、東西冷戦が曲がり角を迎えていた時期に合衆国憲法に忠誠を誓い、日本と一線を画しました。この事の意味は、もっと問われて良いことではないでしょうか? 当時、防衛大学校の学生だった田母神俊雄青年が航空自衛隊に入るのは、南部先生が米国籍を取得された翌年のことです。

「文民統制」はどう始まったか?

 この田母神・前航空幕僚長の「言論の自由」発言が問題になる時「文民統制」の乱れが指摘されます。しかし肝心の「文民統制」のご利益を体感していない人には、馬の耳に念仏でちっとも通じません。そうでなければ「文民統制がこれ以上強くなると自衛隊が動けなくなる」などという発言が出てくるわけがないでしょう。そこで今回は、この「文民統制」が、いかに「国を繁栄に導き」「社会を豊かにする」カギであるかを考えてみたいと思います。

 前々回、18世紀末、ハワイに銃器がもたらされて「戦国時代」が到来し、カメハメハ大王が強権を掌握したことに触れました。日本にも種子島の火縄銃以後、下克上の世の中が到来します。動乱を収拾するのは基本的に武力で、軍事によって王権が一国の支配を確立する、と言っても、大きく間違うことはないでしょう。人類史上、圧倒的多数の国家権力は王権で、それらは「王の軍隊」によって支配を基礎づけてきました。

 英国では13世紀、有力貴族が王権の暴走にブレーキを掛けるために「憲法」の原点と言うべき「マグナカルタ」大憲章が導入され、以来一貫して「立憲君主制」が整備されてきました。とりわけ「国王の軍隊」への牽制は1688年の名誉革命と、それに続く「権利の章典」から実現されるようになります。

 国軍トップとしての王の「統帥権」を、民主的な選挙で選ばれた議会や内閣が規制するシステム、これこそ「文民統制」の原点です。

 国権が集中し、それが武断に走る最大のマイナスは、しばしば実体経済の成長を阻害することでしょう。古くは「大航海時代」の海の覇者スペインから20世紀末のソ連まで、例の枚挙にいとまがありません。この点、英国では早い時点から「国権へのブレーキ」=「武力への抑制」が利いていたことが資本主義の成長を助け、英国は統率の取れた武力を背景に世界帝国の建設に成功します。帝国主義のよしあしとは別に、「文民統制」が経済成長と密接に関わる最大の証拠は、それを導入した英国の、初期の成功を見るだけでも明らかです。

 社会は様々に動いており、新しい動向が新たな繁栄を生み出す端緒になり得ます。大きく端折って言うなら、それを縦横に生かせる社会体制を英国は「武断政治」から「文民統制」に移行することで実現したわけです。

 市場の動向を「神の見えざる手」にゆだねるアダム・スミス以来の自由経済も、その経済システム全体を数理モデルで考え、政策の介入を考えるジョン・メイナード・ケインズも、いずれも文民統制の利いた英国生まれであるのは偶然ではありません。

 さらにその英国から飛び出して、米国で実力をつけた共和派が、「王の支配」からの独立を宣言して出来たのが「アメリカ合衆国」に他なりません。

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