団塊世代の大量退職などで、増益を続けている業績を支えてきた現場力の低下に危機感を覚えている旭硝子。これまで培ってきた高い技術力を若い世代に伝承し、海外に浸透させていくために何をしているのか。 「モノづくりへのこだわりと現場力の強化」=「技術・技能の強化、伝承」という同社の経営方針を体系化し、現場力強化を推し進める加藤勝久・最高技術責任者(CTO)に聞いた。
(聞き手は日経ビジネス オンライン編集長 廣松 隆志)
(前回「もはや職場任せのOJTでは成果は出ない」から読む)
―― 日本国内での技能伝承のお話がありましたが、もう1つ、日本で培った旭硝子の技術を、今度は外国の全く違うコミュニケーションの世界に伝えていく必要がグローバル企業としてあるかと思います。旭硝子の現場力を高める拠点である「AGCモノづくり研修センター」には、海外の方も日本に来て研修を受けるのですか。

加藤 勝久(かとう・かつひさ)氏
1949年3月10日東京都生まれ。横浜国立大学大学院修士課程化学工学専攻修了後、旭硝子に入社。2003年に執行役員化学品カンパニー事業統括本部長。2005年に執行役員技術本部中央研究所長、2006年に上級執行役員中央研究所長、2008年3月から取締役兼常務執行役員CTO(写真:小久保 松直、以下同)
海外の方に来てもらうこともあります。それに今、東南アジアで同じような施設を、まずはタイに作り始めました。
講師は、日本で先生を務めている人が行くだけでなく、現地の人が務めるケースもあると思います。先生になる人が日本へ来て、トレーナーズ教育を積んでもらう形も考えています。日本の研修センターが、マザー研修所のような役割を果たすわけです。
―― 製造現場ではなく、研究所や生産技術レベルでは、グローバル化はどの程度進んでいるのでしょう。
海外を含めた研究所同士で、取り組んでいるテーマを含めて、毎年、必ず進捗状況を相互に確認する会議ができるようになりました。研究開発分野において、遅ればせながらグローバル化がかなり進んできたと期待しています。
―― 今年6月には、新たに生産技術センターという組織を立ち上げられましたが、これは研究開発から製造までの現場力を高めるものでしょうか。
生産技術センターは、研究所とプラント、つまり開発と製造を循環させることを意図しています。研究所で開発した技術を、そのまま実プラントでうまく使うのは難しい。るつぼの中で起きることと、プラントに起きることは違うのです。このため、研究所で開発した技術を一度、センターで生産技術に落とし込んでから製造プラントに移すようにしました。プラントで何かトラブルが出て開発まで戻すと、成果が出るまで時間がかかってしまうのです。
例えばガラスは、それこそ大きさによって熱のバランスが変わってきたりすると、研究開発の段階では非常に効果があったのだけど、実際にやってみたら、あんまり効果がなかったというケースが現実にあります。
ヨーロッパの研究所で開発した基礎技術があれば、それを実際の生産設備で動かしてみて、その効果を調べます。試験設備の段階を経ることで、開発から製造までがスピーディーに運べるものと考えます。生産技術センターそのものは、日本のためにあるのではなく、AGC(旭硝子)グループ全体のために使います。生産技術センターの人だけではなく、当然、開発をした人も一緒に来てもらい、そこでやり取りをします。
マイスターらが製造時の問題点を見抜く
―― 「るつぼとプラントでは違う」というのは、なかなかシンプルで分かりやすい言葉ですね。
計算ではうまくいくように見えますが、実際は違うことがあるのです。いちばん簡単な例で言うと、ガラスの流れというのはかなり粘性の流体ですから、どうしても大きくすると、ある意味でデッドの部分ができるのです。
―― デッドというのは?
例えば、その流れに乗らないで動かないでいるとか、いわゆる死んだスペース、デッドスペースの部分ができ、それが結果的に全体の流れに大きく影響し、製品の品質が安定しない。それから、いろいろな組成的な問題に伴って可能だと思っていても、その材料が飛散してしまうことなどです。そうすると、できたガラスの組成が違ってきますから、実際にある程度作業をやりながら、検証していかないといけない。そうしたことが、生産技術センターを作った趣旨です。
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