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タイセイヨウセミクジラの悲劇

人間の都合で運命を左右された海の“善人”

  • 藤田 宏之

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2008年12月5日(金)

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 北大西洋のタイセイヨウセミクジラは絶滅が心配され、南半球のミナミセミクジラは復活の兆しをみせている。北と南のセミクジラの運命を分けたのは何なのだろうか?

 巨大な体を水深180メートルまで潜らせ、あおむけになって、ごつごつした頭部を海底に触れさせながら泳ぐ。普段は活動的で短気な面もあるが、巨大な波を起こす嵐に遭うと、漆黒の冷たい海にじっと身を潜めてやり過ごす。そして腹を満たそうと、洞窟のように大きな口を広げて、海水もろとも豪快に飲み込むのだ。



オークランド諸島周辺の静かな海を、悠然と泳ぐ体長12メートルほどのミナミセミクジラ。
オークランド諸島周辺の静かな海を、悠然と泳ぐ体長12メートルほどのミナミセミクジラ。

 世界中に3種いるセミクジラ属の属名であるEubalaenaには、「善良、または真実のクジラ」という意味がある。しかし、英語名である“right whale”は「殺すのにもってこいのクジラ」という意味で、クジラ捕りたちが名付けた。セミクジラは陸に程近い浅海を好み、港や入江の近くをゆっくりとしたスピードで泳ぎ過ぎる。

 海面に背中を見せたまま、長時間浮いていることも多いため、銛で仕留めるのに格好の標的だったのだ(和名は、背中の曲線の美しさから「脊美鯨」と名づけられた)。分厚い脂肪層からは大量の鯨油(げいゆ)が取れるし、その脂肪のおかげで仕留めた後も海面に浮いていてくれるのもクジラ捕りたちには好都合だった。

 セミクジラは商業目的で捕獲された最初の大型クジラだった。タイセイヨウセミクジラの鯨油はランプ用の油として利用され、中世からルネサンス期に至るまで、ヨーロッパを照らした。だが、16世紀までに、ヨーロッパ人は北大西洋東部にいたセミクジラを捕り尽した。そこで次に目をつけたのが、北米大陸の沿岸だった。

 こうして、ヨーロッパ人はラブラドル半島を拠点に、北米沿岸での捕鯨を開始する。当時はセミクジラと近縁のホッキョククジラとの区別があいまいだったため、セミクジラのみの正確な記録は残っていないが、両種を合わせて2万5000~4万頭が捕獲されたとみられる。

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