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ノーベル講演を共著者に譲った南部博士

坂田、戸塚両博士の遺影と「原爆の光からクラゲの光へ」

2009年1月6日(火)

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 明けましておめでとうございます。前途は様々な波乱含みの年明けですが、困難の中に活路を見いだしてゆきたいものです。

 お正月だから、というわけでもないですが、今回は一連の「ノーベル賞」の話題、晴れ舞台の「授賞式」関係のトピックです。12月10日前後に行われた式典は、すでにいささか旧聞に属しますが、注意してみると一般報道が必ずしも伝えない、重要な出来事が目の前で起きているのを、いくつも確認できます。

 実はこの授賞式の頃、私は欧州でのスケジュールが混んでいて、式典と並行してこれらのニュースをチェックすることができませんでした。本を出したからでしょう、帰国後ノーベル賞がらみのテレビやラジオ、新聞雑誌のインタビューを受けましたが、日本のジャーナリストとお話しするのと並行して、受賞記念講演などをフォローし始めました。そして天地がひっくり返るほど、驚くべきことに気がつきました。どうしてマスメディアはこういうことを知らせないのか、本当に不思議です。今回は日本に関わる4人の受賞者の記念講演を巡ってお話ししたいと思います。

日本語で講演した益川教授

 すでに仕事初めを迎えましたが、もし興味を持たれた方がおられましたら、ぜひノーベル賞受賞記念講演を週末などに見ていただきたいと思います。ノーベル財団のホームページにアップロードされていて、誰でも無料で視聴することができます。

 特に益川敏英教授の講演は日本語ですから、極めて聞きやすいと思います。何事によらず本物に触れるのが一番です。休みの日にお子さんと一緒にご覧いただくのも一興かと思います。

 あまり中身を言ってしまうと、見る楽しみが半減しますので、予告編程度にご紹介しますと、益川教授のお話は、戦争によって実現しなかったお父様の夢から始まっています。

 家具職人だったお父様は、電気技師への転進を図ったこと、でも時代と、とくにあの「愚かしい戦争」のために、それを果たせなかったこと。でも電気の勉強で得た知識を、戦後の何もない時代、おうちから銭湯までの行き帰りの道すがら、幼い益川少年をつかまえて、いかに「三相交流」の送電システムが巧妙なものであるか、など、熱をもって語られたこと。地元の名古屋で坂田教授という人が、教科書に書かれているような物理学の先端を切り開いていることを知った高校生時代の驚き。自分もそれに参加したいと思って始めた猛勉強などなど。

 何一つ気負うことなく、日本語の等身大の言葉で語られるストックホルムでの講演は、本当に多くの子供たちに見てもらいたいと思いました。この講演を見れば、今まで全く知らなかった人でも、益川教授が好きになると思います。

 同時にもう1つ、益川教授が英語を喋れず、日本語で講演しているということ自体の意味を考えてみたいのです。

 もちろん最先端の物理学研究は、主として英語で、国際誌に発表されますから、益川教授も英文を読んだり、論文を英語で書いたりすることはできます。でも話せない、ということは、益川教授の思考が、完全に日本語中心でできているということの、何よりも雄弁な証拠です。

 日本に生まれ、日本語で教育を受け、もっぱら日本語で考えて、素粒子理論という、近代科学の中でも難渋を極める最右翼の分野で、ノーベル物理学賞を受賞する科学者がいること。日本、そして日本人はこのことの意味をよく考える必要があると思います。

固有語で世界の最先端をリードする

 以前から幾度か触れていますが、世界の国々を見渡すと、その国の独自の言葉で、最先端の科学技術開発をリードできるのは、欧州と米国、そして欧州言語を導入した後進国が大半であることが分かります。

 逆を考えてみましょう。インドには5000を超える地方の固有言語が存在すると言われますが、英領植民地だったお国柄から、サイエンスやテクノロジーを学ぼうとすれば、英語で学習するしか方法がありません。

 私が物理と音楽の授業をしに行くアフリカ中央のルワンダ共和国では「アングロフォン」英語と「フランコフォン」フランス語という、言語コースの選択肢が分かれますが、いずれにせよ欧州言語で高等教育を学びます。

 民衆の固有語「キニャルワンダ」(ニャルワンダ語)は、日常生活の用を足すのには使えますが、コンピューターはおろか、テレビや車を修理することもおぼつかないありさまです。ましてバイオテクノロジーや数理科学、ファンドマネジメントなど、先進国の進んだ話題は、そもそもその言葉で語るようになっていない現実があります。

コメント20件コメント/レビュー

素晴らしいお話を紹介して戴き有り難うございます。今回の逸話が御本に載っていないのは残念です。著者ご自身も二訂版以降は別の本になるぐらい書き直したいのが本音かもしれません。今回強く感じたのは、教育は科学教育よりもなによりもまず「精神」を育てるべきものであるという事です。数学者の藤原正彦先生も「論理力」ではなく「情緒力」が重要なのだと強調されています。そしてそれは生涯に亘り向上に向けて努めるべきものなのだと思います。道元禅師も、ただ食を目的とする(食べて生き延びるだけのことや経済的な存続を目的とする)中に未来はなく、「道」を求める事(人の生き方の理想を高く追求する事)の中に結果的に食がある(つまり経済的安定と発展もついてくる)という趣旨の教えを残しています。しかし、「汝・・・するなかれ」と宗教的戒律を強制しても精神は伝わるものではなく、ただ自分自身が先人に倣い後輩や子どもにどの様な生き方をみせるかという実践を続けることによってしか伝わらない様に思います。これは陽明学の「知行合一」の道に通じるのではないかと思います。そして常に戒めなければならないのが、日本人だから優れている民族であるというような選民思想に陥ることなのでしょう。ついつい色々な事を比較して自分達は優れていると安心したくなったりしますが、他人への批判は心の中でその人に依存している事であって、本当は自分がやればいい事に気が付けばよい訳です。多分これからの混乱の時代に対処できるような歴史と伝統のカルチャーを持っている国や民族は殆どないといっていいのであって、我々日本人が一つの決意をもって自分自身が世界の文明をリードしなければならない責任があるという自覚を持つべきかもしれません。(じゃこうねずみ)(2009/01/08)

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素晴らしいお話を紹介して戴き有り難うございます。今回の逸話が御本に載っていないのは残念です。著者ご自身も二訂版以降は別の本になるぐらい書き直したいのが本音かもしれません。今回強く感じたのは、教育は科学教育よりもなによりもまず「精神」を育てるべきものであるという事です。数学者の藤原正彦先生も「論理力」ではなく「情緒力」が重要なのだと強調されています。そしてそれは生涯に亘り向上に向けて努めるべきものなのだと思います。道元禅師も、ただ食を目的とする(食べて生き延びるだけのことや経済的な存続を目的とする)中に未来はなく、「道」を求める事(人の生き方の理想を高く追求する事)の中に結果的に食がある(つまり経済的安定と発展もついてくる)という趣旨の教えを残しています。しかし、「汝・・・するなかれ」と宗教的戒律を強制しても精神は伝わるものではなく、ただ自分自身が先人に倣い後輩や子どもにどの様な生き方をみせるかという実践を続けることによってしか伝わらない様に思います。これは陽明学の「知行合一」の道に通じるのではないかと思います。そして常に戒めなければならないのが、日本人だから優れている民族であるというような選民思想に陥ることなのでしょう。ついつい色々な事を比較して自分達は優れていると安心したくなったりしますが、他人への批判は心の中でその人に依存している事であって、本当は自分がやればいい事に気が付けばよい訳です。多分これからの混乱の時代に対処できるような歴史と伝統のカルチャーを持っている国や民族は殆どないといっていいのであって、我々日本人が一つの決意をもって自分自身が世界の文明をリードしなければならない責任があるという自覚を持つべきかもしれません。(じゃこうねずみ)(2009/01/08)

南部先生の代理講演のお話は、推定でここまで書くのはどうかと思いました。美談だけが印象に残ってしまい事実だと勘違いする読者も多いのでは。また、母国語でトップレベルの科学を学べることの素晴らしさを強調されていますが、それが同時に日本人にとって障害になっていることも認識すべきです。普通の日本人科学者や技術者は、英語ができなくても科学や技術を習得できる。そのまま一生日本語だけでやっていけたらラッキーですが実際にはそういうわけにはいかない。現に我々の職場では、高度な分析装置を工業高校卒の担当者が操作しますが、マニュアルは英語、メーカーの技術者も欧米人のため大変な苦労をしています。日本語でのサービスを要求すると、メーカー曰く「他の国ではこの分析装置を担当するような(高い技術レベルを持った)技術者は当然英語もできる。英語ができないのは日本だけ」。(ちなみに著者も言及されている通り、益川博士は英語論文を自在に読み書きされていたはずであり、益川博士は英語のできない科学者には相当しません)(2009/01/07)

感動しました。著者の卓越した調査・分析とそれを活かす文章の力にはただただ脱帽します。(2009/01/07)

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