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強い国を作った「人を切らない」思想

“障害者集団”、スウェーデン・サムハルの驚愕(最終回)

2009年1月20日(火)

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 数人の男たちが熱心にメモを取っていた。

 2008年4月、サムハルが受託している民間郵便会社の配送所には、トヨタ自動車の社員がいた。2008年5月、トヨタループスという特例子会社を作ったトヨタ自動車。トヨタの社員がサムハルを訪ねたのは、2万人の障害者をマネジメントするノウハウを学ぶためだった。

障害者の専用工場を造るトヨタ自動車

 トヨタループスは今春、トヨタの本社敷地内に障害者のための専用工場を造る。そこで障害者を雇用し、社内向けの郵便物の仕分けや印刷業務などを手がけていく。

 事業開始は今年の5月。初年度にはサポートのための健常者50人を加えた80人体制を、5年後には、障害者70人、健常者30人の100人体制を目指すという。100人規模の特例子会社はあまり例がない。

 トヨタは今年度の決算で営業赤字に転落することが濃厚になった。進行中のプロジェクトは、その多くが中止や凍結の憂き目に遭っている。だが、障害者工場プロジェクトだけは継続して進めることが決まっている。それだけ、トヨタは障害者雇用に本気なのだろう。

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サムハル本社はストックホルムの中心地にある(写真:Niklas Larsson)

 特例子会社の設立に当たって、トヨタループスの常務、有村秀一は他社の特例子会社や先進的な障害者施設を見て回った。バリアフリーなど優れている施設は多くあったが、どれも国の規格に則ったものばかり。ほかと全く違う、驚くような施設に出合うことはなかった。そんな折、サムハルの存在を知った有村はスウェーデンに飛んだ。

 ストックホルムでは、障害者が働く現場を子細に見た。確かに、従業員は生き生きと働いていたし、障害者をまとめるマネジメントに見るべき点もあった。ただ、トヨタ流のカイゼンが骨の髄まで叩き込まれている有村である。サムハルの作業所を見ていると、もっと改善の余地があるように思えた。郵便物の配送所も、トヨタならもっと効率的に運営するかもしれない。

 だが、逆立ちしてもできない――。そう感じたものがあった。それは、障害者に対する人々の意識である。

「ここでは、あなたが障害者なんですよ」

 「一つひとつを見ると、日本とやっていることはそれほど変わらない。でも、『障害』に対する考え方がまるで違う」

 サムハルの幹部に言われた言葉は、今も有村の耳から離れない。

 「あなたはスウェーデン語が話せませんよね。ここでは、あなたが障害者なんですよ」

 この幹部は冗談で言ったのだろうが、この一言は有村の心に響いた。環境が変われば、誰もが不自由な状況に置かれ、誰でも障害者になり得る。これは、裏を返せば、個人の差異は何も特別なことではないということでもある。障害を持つ。それは特別視するようなことではない。

 サムハルを見てもそうだろう。サムハルの人々は障害者が働くことに、何の疑問も感じていない。当たり前のように、働きがいのある仕事を探し出そうとしている。サービス業に進出したように、「障害者だからできない」とは考えない(無論、反対した幹部がいたように、全員がそう考えていたわけではなかったが)。

 これは、一般の市民でも同様だ。スウェーデン人は障害者が地下鉄に乗っていることに違和感を持つ人はいない。カフェテリアで働いていることを不思議に思う人もいない。サムハルという障害者集団に好奇の目を向ける人もいない。もちろん、必要な手は差し伸べるが、誰も障害者を特別視していない。

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スウェーデンでは誰も障害者を特別視していない(写真:Niklas Larsson)

 日本はどうだろうか。

 スウェーデンから帰国した翌日。バスに乗ると、車いすの青年が乗ろうとした。運転手が手伝ったため、発車が2分ほど遅れた。すると、青年に聞こえるように、1人の老人が呟いた。

 「お前のせいで遅れたんだから、一言、何か言ったらどうだ」

 青年はうつむいたままだった。自分自身を含め、誰も乗車を手伝わなかったし、老人に注意もしなかった。何より、そんな光景を前にしながら、体と口が動かない自分を恥じた。と同時に、スウェーデン社会との違いを肌で感じた。この意識の差はとてつもなく大きいのではないだろうか。

 それでも、サムハル的な組織は日本にもある。

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「強い国を作った「人を切らない」思想」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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牛島 信 弁護士