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今の資本主義はもう、やめてくれ

“森の国”の思想が次の経済システムを作る

2009年2月4日(水)

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 2009年3月期決算での最終赤字を発表したトヨタ自動車を皮切りに、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝など日本を代表する企業が最終赤字や営業赤字に転落しようとしている。実体経済に痛撃を与えた金融危機。これまで繁栄を謳歌したグローバル資本主義経済の1つの転換点と言って過言ではない。

 私たちの想像を超える深度で進む危機。一定の周期で訪れるバブルが破裂しただけなのか、それとも既存の社会・経済システムが激変する地殻変動の兆候なのか――。その解を探るには、全く異なるレンズを通して今を眺めることも重要なのではないか。数千年のスパンで文明の盛衰を見つめる環境考古学者に聞いた。(聞き手は、日経ビジネス オンライン記者 篠原匡)

 ―― 数千年のスパンで人間社会を見つめている考古学者が今の金融危機をどう見ているのか。今日はそれを聞きたいと思ってきました。本題に入る前に、安田教授が唱える「環境考古学」とはどのような学問なのか、そのことからお聞かせいただけますか。

 安田 僕はもともと地理学を研究していました。地理学というのは、自然と人間の関係を研究する学問。僕も気候変動や森林破壊が人類の歴史や文化に与える影響などを研究してきました。ところが、大学を卒業する頃、高度経済成長期になってからは、「マーケットの中心はどこにあるのか」「どこに工場を建てればいいのか」「どのように市場を開拓すればいいか」といったテーマが地理学の中心になりました。

「ギリシャ文明は木を切り尽くしたために崩壊した」

 僕の関心は自然と人間の関係にありましたから、相変わらず「気候が変わると文明が崩壊する」「森がなくなったら人類の生活が困窮する」などという話をするわけです。すると、「それを克服する英知と技術力が人間にある」「お前の議論は時代遅れだ」などと言われてしまう。僕は東北大学の大学院を卒業した後、広島大学の助手になるのですが、足かけ15年間ずっと助手のままでした。

 ―― 不遇ですね…。

写真、安田喜憲教授

安田喜憲(やすだ・よしのり)
国際日本文化研究センター教授。1946年三重県生まれ。72年東北大学大学院理学研究科修了後、広島大学総合科学部助手、国際日本文化研究センター助教授を経て94年に現職。専門は環境考古学。気候変動が文明に与える影響を研究している。
(写真:大槻純一、以下同)

 安田 全く恵まれていなかった。当時、親切な教授がいて、「安田君、こんなことをしておったら、いつまで経っても助教授にはなれないよ。ちょっとやることを変えたらどうだ」と言ってくれたんだけれども、早く教授になるために学者になったわけではないのでテーマは変えませんでした。

 その状況が変わってきたのは1990年代になってから。オゾンホールが発見されて、地球環境問題が大きな課題になると、僕の仕事が次第に注目されてきました。特に、日本では冷害が起きた94年以降でしょうか。技術力を持った国なのに、ちょっと冷害が起きただけで米不足になった。それが呼び水になって、徐々に注目されるようになりましたね。

 ―― 地理学が環境考古学に発展したのには、どんな経緯があったのですか。

 安田 僕は地中海に憧れていたので、広島大学時代は古代ギリシャ文明や古代ローマ文明の研究をしていました。その研究で初めてギリシャを訪れた時に禿げ山を見た。ミケーネ遺跡の背後にイリアス山という山がありますが、そこには全く木が生えていなかった。

 「こんな禿げ山のところで文明が発展するはずがない」。そして、「木を切り尽くしたために、文明が崩壊した」。そう直感しました。その当時、文明の衰退を森林の変遷や環境破壊の関係で論じた人はいませんでしたが、僕は禿げ山を見た瞬間に、森を破壊したためにギリシャ文明が崩壊したと思った。

 その直感を証明するためには、森林破壊と文明の崩壊を科学的に証明しなければなりません。そこで、私は花粉分析の手法を用いました。花粉は科学的に安定した堅い膜を持っていて、土の中に落ちても腐らない。ボーリングで地層を抜き取り、花粉を取り出して、どんな種類の花粉がどれだけあるかを調べれば、過去に生えていた植生が分かる。

 実際に、僕はギリシャでボーリング調査をしました。すると、ギリシャ文明の時代には深い森があり、森の文明だったということが分かった。「テーベ」という都のそばにあるコパイ湖のボーリング調査では、ギリシャ文明が繁栄している時代にはナラとマツの混交林があったことが証明された。

表土が流出し、内海を埋め、マラリアの巣窟になった

 深い森があったのはローマも同じでした。ローマ文明は森の資源を使って船を造り、地中海の交易システムを確立した。これが、ローマ文明が発展した足掛かりだったと言われています。

 このように、ギリシャ文明やローマ文明の始まりの頃には豊かな森があった。それが、文明が発展する中で破壊され、今のような禿げ山になった。そして、禿げ山になったことがギリシャ文明やローマ文明を崩壊させた大きな要因になった――。その時にこう考えました。

 ―― なぜ森がなくなると、文明が衰退するのでしょうか。

 安田 禿げ山になると、表土が露出します。そうすると、雨によって浸食された表土が下流に運ばれてきて、内湾や海、湖などを埋めていく。すると、湿地になりますよね。私たちのような稲作農民はそういう湿地を水田にできるけれど、ギリシャは畑で麦を栽培し、羊や山羊を飼う人々。じめじめした湿地には何の意味もないからほったらかしにしてしまう。

 その湿地で蚊が発生し、マラリアが広がるようになった。実際、ギリシャ文明の末期にはマラリアは風土病になっている。そして、ギリシャ人たちは力を喪失させていった。花粉分析をしてみると、こうしたシナリオが見えてきました。

 ―― ローマはどうだったのでしょうか。

コメント87件コメント/レビュー

大変面白く、内容のある記事でした。ちょっと過激でしかしストレートにお考えが伝わって着て良かったと思います。最近はこれほどはっきりと多数派宗教の批判ができるようになったのかという驚きもありました。実際宗教と人種については知らないことが多いので慎重にならざるを得ませんが、今の世界の主流である米国中心の経済体制には、個人的に不信感を持っており、その宗教的なバックボーンと併せて、米国経済を支えるための対テロと名うった戦争継続にも不快感を感じています。先生の記事、歴史的な推移も大変納得いたしましたが、と同時に先月寄せられたたくさんのコメントの様々なご意見と深いお考えも、大変興味深く拝見しました。私は環境問題については、将来の食糧の絶対的不足も考えると、国力だけを考えて少子化を唱えている場合ではなく、地球規模では今以上人口が増えることは危険だと思います。私が子供のころ地球人口は32億でした。このたった40年で人口が倍以上になっていることは異常です。現文明での人類は末期的なのかとも思います。地下資源を奪い合う戦争と経済を抜けて、一刻も早く太陽光発電などの自然エネルギーへのシフトと、真剣な食糧確保への取り組みに入りたいものです。大国は「氷河再生プロジェクト」の共同研究をしてほしいと本気で思うこのごろです。(2009/03/05)

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「今の資本主義はもう、やめてくれ」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

大変面白く、内容のある記事でした。ちょっと過激でしかしストレートにお考えが伝わって着て良かったと思います。最近はこれほどはっきりと多数派宗教の批判ができるようになったのかという驚きもありました。実際宗教と人種については知らないことが多いので慎重にならざるを得ませんが、今の世界の主流である米国中心の経済体制には、個人的に不信感を持っており、その宗教的なバックボーンと併せて、米国経済を支えるための対テロと名うった戦争継続にも不快感を感じています。先生の記事、歴史的な推移も大変納得いたしましたが、と同時に先月寄せられたたくさんのコメントの様々なご意見と深いお考えも、大変興味深く拝見しました。私は環境問題については、将来の食糧の絶対的不足も考えると、国力だけを考えて少子化を唱えている場合ではなく、地球規模では今以上人口が増えることは危険だと思います。私が子供のころ地球人口は32億でした。このたった40年で人口が倍以上になっていることは異常です。現文明での人類は末期的なのかとも思います。地下資源を奪い合う戦争と経済を抜けて、一刻も早く太陽光発電などの自然エネルギーへのシフトと、真剣な食糧確保への取り組みに入りたいものです。大国は「氷河再生プロジェクト」の共同研究をしてほしいと本気で思うこのごろです。(2009/03/05)

このままじゃ地球全体がイースター島になるってのは多分、精度の高い予言かと思います。ただなぜ一神教が多神教に連戦連勝だったのかは、考えなければならないところでしょう。我々が生物である以上自然選択にしたがって生きていくしかない。結果としての生存こそが生物の真理です。そこには慈悲も救いもない。多神教は一神教に比べ弱かった。なにも幻想としての約束が無かったから。多神教に天国はありません。これで人気で負けました。これは現実の歴史です。一方現代の問題は拝金教であって、一神教そのものではないとは思います。天国なんて誰も信じてないし。宗教は拝金教に既に敗北して骨抜きです。実際、キリストは金持ちが天国の門をくぐるのは難しいと言っていたのに。嘆かわしいことです。(2009/02/12)

・ 私は新宿の淀橋教会(プロテスタント)の伝道師です。世界と日本の動向に祈りを寄せる一人です。当該記事の安田先生の視点は、環境が経済にとどまらず思想・宗教にも及ぶとの洞察に興味を持ちました。しかしその結論には同意しかねます。・ 安田先生の「一神教は環境破壊的、森の國思想、多神教が環境許容力があり」には同意できません。ご指摘のようにキリスト教会・文化は過ち多き残念な史実を持ちます。歴史を巡れは、宗教・倫理・価値観と政治的・経済的関連は理想的にいかないことが良くわかります。多神教ならば自然や環境に畏敬の念を持つのか?豊臣秀吉に始まる朝鮮半島への侵略や、近代アジア諸国への経済・軍事的侵略を挙げれば、日本人が「生きとし生けるものを崇拝し、他人の幸せを考え、慈悲の心を持って、人と自然が接するという素晴らしい伝統」(本文抜粋)を、国家としては実現できていないことは自明です。周辺諸国の幸せを踏み込んだ末に敗戦を迎え政治的配慮にり、かろうじて民族・文化としての日本は消滅を免れてきた。・ 宗教・神学や思想が、経済・政治の動力として強く影響を与える、ということは大事な観点です。「近代資本主義が成立するためには、プロテスタンティズムという起爆剤が必要だった」とは、社会学の巨人、マックスウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」でも立証しているところです。ウェーバー研究の経済史の大家・大塚久雄先生も、最近では小室直樹先生もこの線にそった理解をしておられます。経済発展重視傾向の現代国際社会はしばらく、思索的領域の大切さを見失しなっていた。警鐘を鳴らす意味では安田先生の記事は意味ありますが、結論には疑問です。・ こうした領域を取上げる日経ビジネスの感覚はさすがです、ただジャーナリズムの社会的責任を省みるならば、ましてビジネス界に影響力をもつ御誌であればなおさら、多角的な“健全な”記事掲載を、または“健全な”議論が見える場の紹介を期待します。(2009/02/12)

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