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日本の未来が見える村

長野県下條村、出生率「2.04」の必然

2009年2月10日(火)

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 かつて養蚕で栄えた下條村。ピーク時には6500人の村民がいた。だが、昭和50年代になると、養蚕は衰退。沈没船から逃げ出すように、1人、2人と村民が減り始めた。村民の減少は村の活力を失わせる。ガソリンスタンドを経営していた伊藤氏は村民の減少をくい止めようと、役所や議会に掛け合った。

 だが、人口減少に妙案はなく、時間ばかりが過ぎていった。業を煮やした伊藤氏は自分で変えるしかないと、1992年の村長選に立候補した。その時に掲げた公約は「人が増える村」。そして、当選した伊藤氏は“村民倍増計画”を実行に移した。

「村民増」の第一歩は行財政改革

 最初に取り組んだのは財務体質の強化だった。どんな政策を打とうにも、十分な予算がなければ何もできない。ただ、いきなり歳入を増やすことは難しい。ならば、支出をカットすることで自由に使える予算を捻出しようと考えた。そして、実行したのが職員の意識改革である。

伊藤氏

村民の増加という公約を実現した下條村の伊藤喜平村長(写真:大槻純一)

 民間企業の従業員と同じくらい役場の職員が働くようになれば、今よりも少ない人員で役所業務をこなせるだろう――。そう考えた伊藤村長は民間企業の厳しさを叩き込もうとした。ところが、これがなかなかうまくいかなかった。

 「まあ、頭の切り替え1つ取っても、とにかく超スローだったな(笑)。要するに、新しいものには絶対に挑戦せんと。まあ、ひどいものだったな」。伊藤村長は職員に対して、民間企業の従業員がいかに厳しい環境で仕事をしているか、いかに君たちの仕事ぶりが非効率か。懇々と説諭した。

 その甲斐あってか、半年も経つと、伊藤村長の言うことの7割ぐらいまで理解するようになった。ただ、それでも残りの3割を理解してくれない。またまた業を煮やした伊藤村長。実際に民間の仕事を体験させるため、職員を飯田市内のホームセンターの店頭に立たせた。

 公務員は難解な言葉を使ってカネを配ることが仕事のようなもの。カネがなくなれば、「村長、またひとつ、カネを取ってきてくださいよ」と言うだけだ。そんな職員に、カネを稼ぐことがどれだけ大変か、お客様に商品を説明し、提案し、納得して買ってもらうことがどれだけ難しいか、身をもって体験させようとしたのだ。

 わずか1週間の実地研修。効果は抜群だった。

 「これまで村長が言っておったことはオーバーじゃなかった、とみんなが気づいた。それから、目の色が変わった」。伊藤村長はこう振り返る。その後、退職による自然減を補充せず、一人ひとりの職員の生産性向上で乗り切った。係長制度を廃止し、職員全員が様々な仕事をこなす体制を作り上げた。

 その結果、村長就任時に比べて、職員数は約半分の34人にまで減った。人口1000人当たりの職員数に直せば8.1人。これは、同規模の自治体に比べて半分以下の数値だ。人件費率も15.6%と群を抜いて低い。

 「ほかに比べて総数で20人は少ない。1人800万円として、これだけで年1億6000万円が浮く計算」と串原良彦総務課長は言う。一般財源に占める経常的支出の割合を示す経常収支比率は73.6%と、人口4200人の村にしては財政にゆとりがある。それも、20年近く行財政改革を続けてきたためだ。

無謀なインフラ整備に手を出さなかった

 この村が健全財政を実現しているのは国の甘言に乗って過大な投資をしなかったことも大きい。

 伊藤氏が村議会の議長を務めていた1991年、村と議会は下水道整備の検討を始めた。その当時、国や長野県は公共下水や農業集落排水処理施設(農集排)の建設を積極的に推進していた。村で試算してみると、公共下水や農集排を建設した場合、約45億円のコストがかかることが分かった。

 もちろん、国や県の補助金が出るだけでなく、地方債を発行し、財源を賄うことも可能だった。その地方債の元利払いは交付税で面倒を見てもらえる。これを見ても分かる通り、建設時の村の負担は少ない。だが、その後の30年間、地方債の償還や処理施設の運営に毎年1億7000万円が必要になる。

 それに対して、全戸に合併処理浄化槽を設置すれば約6億3000万円しかかからない。しかも、村の負担金は2億2000万円で済み、単年度で処理できる。議長だった伊藤氏は当時の村長と相談し、合併処理浄化槽の導入を決めた。

 「あんな程度の村だって公共下水を入れたんだから、うちの村だってできないはずはない。そう言って、多くの村は財政なんて何も考えずに『右へ倣え』で下水道を整備した。『なんだ、下條は合併浄化槽か』とうちも散々バカにされましたよ。でも、東京ならいざ知らず、こんな田舎で公共下水を整備してペイするはずがない」。伊藤村長の言葉は至極まっとうに聞こえる。

 「補助金」「地方債」「交付税」。この3つを行政関係者は「地獄の3点セット」と呼ぶ。インフラ整備やハコ物事業を進める場合、国や県から半分程度の補助金が出る。さらに、足りない分は地方債の発行が認められ、その元利返済は地方交付税で面倒を見てもらえた――。この3点セットは市町村が借金の痛みを感じることなく、借金を積み重ねることになる原因になった。

 90年代半ば以降、景気対策の公共投資が頻繁に繰り広げられるようになると、国の政策誘導として3点セットが使われたこともあり、自治体は膨大な借金の山を積み上げた。経常収支比率が上昇し、自由に使えるカネが少ない市町村が増えたのは、3点セットの公共投資で借金を積み上げたため。それに対して、下條村は無謀なインフラ整備をしなかった。

 この差が今、効いている。下條村が行財政改革をせず、公共下水に投資していれば、職員の人件費で1億6000万円、下水道で1億7000万円の計3億3000万円のコストが毎年かかっていた。下條村の予算規模は約28億円。予算の1割以上が浮く影響はとてつもなく大きい。

 村長就任後、行財政改革を断行し、政策に回せるカネを捻出した伊藤氏。次に、実行したことは「行政サービスの明確化」だった。

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「日本の未来が見える村」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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