(前編から読む)
官僚がどんな事業をしているのか。そのすべてを知っている国民はほとんどいない。自分の役所でどれだけの政策を手がけているのか。当の官僚もあまり知らない。ブラックボックス化する官僚機構。それが、国と地方を複雑にしている。
政策の棚卸しで驚くべき事実が明るみに
「今は国と地方の役割分担がメチャクチャ。国、都道府県、市町村の事業を洗い出し、どの主体がふさわしいか、明確に分けていく。そのことを第一に始めるべきだ」。NPO地方自立政策研究所の穂坂邦夫理事長は指摘する。前志木市長の穂坂氏。霞が関の行動原理や地方自治、市町村の実態などに詳しい。
郵政民営化のように、行政サービスの民間開放は増え始めた。だが、国と地方に民間開放の余地がどれだけあるのか、正確に把握している人はいないだろう。
国道管理、河川管理に象徴される国と都道府県の二重行政、三重行政も数多く存在している。だが、実際のところ、国と地方で何がどれだけ重複しているのか、すべてを知っている人はいないはずだ。
自民党の「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」の河野太郎チームでは、中央省庁の棚卸しを始めた。この動きが加速すれば、国と地方に眠るムダも明らかになるはずだ(写真は公開討論の俎上に載せられた文部科学省のプロジェクト)
先進的な市町村や都道府県の中には、外部の専門家の力を借りて役所の政策の棚卸しを進めるところも出ている。だが、国と地方にどれだけの政策があるのか、すべてを熟知している人はいないに違いない。
こういった行政のブラックボックスを解き明かすため、穂坂氏と地方自立政策研究所は国と地方のあり方を議論してきた。「官の役割」「官と民」「国と都道府県」「都道府県と市町村」。それぞれの役割を明確にするため、埼玉県と草加市をモデルにすべての業務を洗い出した(詳細は地方自立政策研究所役割分担明確化研究会著『地方自治自立へのシナリオ』にある)。
そもそも官が税金を使ってやらなければならないサービスなのか。必要だとしても、公務員が手がけなければならないサービスなのか。行政が担うにしても、国、都道府県、市町村のどこが実施するべきなのか――。それを一つひとつ検証していったのだ。いわば政策の棚卸し。すると、驚愕の事実が明らかになった。
国と地方の役割分担を見直すだけで14兆円
埼玉県では、約1兆6800億円の一般会計予算(2006年度当初予算)うち約500億円の事業が不要という結論になった。民間開放が可能と判断した事業は2205億円、県ではなく市町村や国に移管すべき事業が3928億円、そして、576億円の補助金が不要と判明した。
同様に、草加市の一般会計予算は540億円。そのうち不要が24億円、民間開放が311億円、事業移管が88億円、廃止すべき補助金は68億円に上った。
次に、それぞれのコスト削減効果を定義づけた。
詳細は前出の『地方自治自立へのシナリオ』を見てほしいが、事業を廃止した場合のコスト削減効果は全額。民間開放については、対象になった事業の半分が既に民間開放されていると見なし、残りの5割で民間開放を進めれば、3割のコスト削減効果が得られるとした。事業移管による合理化効果として2割の削減効果を認定。補助金については廃止した後、8割を地方に財源移譲するという前提とした。つまり削減効果は2割である。
そして、埼玉県と草加市の予算に対する削減可能コストの比率を出し、全国の都道府県と地方自治体に当てはめた。その結果、判明したことは以下の通り――。
事業廃止によるコスト削減効果は都道府県と市町村で3兆5518億円。民間開放による削減効果は5兆1520億円。事業移管、二重行政の撤廃による削減効果で3兆8278億円。補助金の廃止で1兆5673億円。合計で約14兆円。霞が関の埋蔵金もビックリの金額である。この試算では中央省庁には手をつけていない。特殊法人への補助金も対象外だ。国と特殊法人を含めれば、さらに増えるに違いない。
中央省庁に広がり始めた政策の棚卸し
地方自立政策研究所が設定したコスト削減効果の前提は彼らの考えであり、異論をはさむ向きもあるだろう。埼玉県と草加市の数値を全国に当てはめており、正確さに欠けるという意見も出るかもしれない。ただ、それを差し引いても、国と地方の役割を見直すだけで、10兆円、20兆円レベルのカネが浮く。国と地方の間には、膨大な“埋蔵金”が眠っていることは間違いない。
考えてみれば、通常の業務を洗い出し、その中身を検証することは当たり前のことだ。業務を始めた当初は意味があったものでも、時代とともに必要性が薄れることは十分にあり得る。政策を実行してみたものの、思ったほどの効果がなかった、ということだってあるだろう。定期的に足元の業務を見つめ直し、改廃していくことは何も不思議ではない。その当たり前のことが、この国では行われてこなかった。
この行政の棚卸しは民間のシンクタンク、「構想日本」を中心に市町村レベルでは浸透しつつある。もっとも、地方自立政策研究所が断念したように、中央省庁が実施している政策の洗い出しは情報不足もあり、実現していなかった。ところが、政治が動いたことで省庁の重い扉も開きつつある。
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