「御立尚資の「経営レンズ箱」」

“スターバックス”と雇用不安下での「生き方」論

雇用創出に向けた仕組み・仕掛け作りへ

バックナンバー

2009年2月13日(金)

1/2ページ

印刷ページ

 『How Starbucks Saved My Life』(Gotham Books)という本がある。米国で2007年の秋に出版されたもので、タイトルを直訳すれば「いかにして“スターバックス”は、私の人生を救ったか」ということになろうか。

 大手広告代理店の上級管理職として成功を収めていた筆者Michael Gates Gill氏が、リストラに遭い、失職。離婚や病気も重なって、精神的に打ちのめされてしまう。その後、紆余曲折を経て、スターバックスで時給で働き出した彼は、次第にそこでの仕事、そして金銭的な成功を追い求めるのではない生き方に、深い満足感を得るようになる、というノンフィクションだ。

 トム・ハンクスが版権を手に入れ、この話を基に映画を製作するということもあり、出版後あちこちのメディアで取り上げられていたし、かなりのベストセラーにもなった。

 最近になって、この本がまた話題になっている。ご覧になった方もいらっしゃるだろうが、1〜2週間前にCNNでも、筆者Michael Gates Gill氏のインタビューが繰り返しオンエアされていた。この本の内容や著者が再び脚光を浴びるようになった背景には、言うまでもなく、最近の雇用不安がある。

「成功」よりも「幸せ」に価値を見いだす

 出版当初に話題になっていたのは、著者自身の極端な浮き沈みを伴う人間ドラマの部分だったようだ。もともと著名な作家の息子として、ニューヨークの白人エリート層に生まれ育った著者が、生まれて初めて、教育や所得レベルも、そして人種や文化的背景も違う仲間と一緒に働き、生活するようになる。これだけでも十二分に劇的な状況設定で、多くの人の興味を引くことになったのだろう。

 ところが最近は、「リストラされても、自らの気の持ちようと考え方次第で、幸せに生きていくことができるはず」というトーンが色濃く出る形で取り上げられている。CNNのインタビュアーは、「今、大手広告代理店の役員の職を、高給でオファーされたらどうするか」と問い、著者は「決して受けない」と答える。「栄達と贅沢を求め続ける生活」には不毛を感じるし、今の地に足が着いた生活の中で「仲間とお客さんに喜ばれながら生きていくことの幸せ」には掛け替えがない、という。

 こういった取り上げ方の是非はあろうが、昨今の米国での急激な雇用減少とそれに伴う不安感の広がりに、この本のテーマがマッチしたことは間違いないだろう。そしてもっと奥深くには、「金銭的な意味での成功を追い続けても、どこまでいっても終わりがない。幸せに生きていくには、その価値観から離れて、新しい価値観によって立つしかない」というムード(あるいは気づき)の広がりもあるように思える。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。


関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント2 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

御立 尚資(みたち・たかし)

御立 尚資

ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。



このコラムについて

御立尚資の「経営レンズ箱」

コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン