『How Starbucks Saved My Life』(Gotham Books)という本がある。米国で2007年の秋に出版されたもので、タイトルを直訳すれば「いかにして“スターバックス”は、私の人生を救ったか」ということになろうか。
大手広告代理店の上級管理職として成功を収めていた筆者Michael Gates Gill氏が、リストラに遭い、失職。離婚や病気も重なって、精神的に打ちのめされてしまう。その後、紆余曲折を経て、スターバックスで時給で働き出した彼は、次第にそこでの仕事、そして金銭的な成功を追い求めるのではない生き方に、深い満足感を得るようになる、というノンフィクションだ。
トム・ハンクスが版権を手に入れ、この話を基に映画を製作するということもあり、出版後あちこちのメディアで取り上げられていたし、かなりのベストセラーにもなった。
最近になって、この本がまた話題になっている。ご覧になった方もいらっしゃるだろうが、1〜2週間前にCNNでも、筆者Michael Gates Gill氏のインタビューが繰り返しオンエアされていた。この本の内容や著者が再び脚光を浴びるようになった背景には、言うまでもなく、最近の雇用不安がある。
「成功」よりも「幸せ」に価値を見いだす
出版当初に話題になっていたのは、著者自身の極端な浮き沈みを伴う人間ドラマの部分だったようだ。もともと著名な作家の息子として、ニューヨークの白人エリート層に生まれ育った著者が、生まれて初めて、教育や所得レベルも、そして人種や文化的背景も違う仲間と一緒に働き、生活するようになる。これだけでも十二分に劇的な状況設定で、多くの人の興味を引くことになったのだろう。
ところが最近は、「リストラされても、自らの気の持ちようと考え方次第で、幸せに生きていくことができるはず」というトーンが色濃く出る形で取り上げられている。CNNのインタビュアーは、「今、大手広告代理店の役員の職を、高給でオファーされたらどうするか」と問い、著者は「決して受けない」と答える。「栄達と贅沢を求め続ける生活」には不毛を感じるし、今の地に足が着いた生活の中で「仲間とお客さんに喜ばれながら生きていくことの幸せ」には掛け替えがない、という。
こういった取り上げ方の是非はあろうが、昨今の米国での急激な雇用減少とそれに伴う不安感の広がりに、この本のテーマがマッチしたことは間違いないだろう。そしてもっと奥深くには、「金銭的な意味での成功を追い続けても、どこまでいっても終わりがない。幸せに生きていくには、その価値観から離れて、新しい価値観によって立つしかない」というムード(あるいは気づき)の広がりもあるように思える。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。




からのご案内




