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苦節11年、若きロボット研究者の夢が実現

セコムの食事支援ロボット、世界へ

2009年2月24日(火)

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 「豁達」――。警備業大手セコムの社内には、至る所に墨痕鮮やかな達筆で書かれたこの2文字が掲げられている。「フータ」と読むこの2文字の意味するところは「心ひろやかに、明るく、小さなことにこだわらないさま」。セコムの持つ新進の気風をよく表す言葉だ。それは、警備から発して医療、福祉、情報システム、保険など失敗を恐れずに新たな事業に挑戦し続け、永遠のベンチャーたろうとする伸びやかな精神を表す。

 セコムの社内では、萎縮する部下に向けて上司が今も言う。「フータでいこう」。今日その声は、まるで世界同時不況で萎縮する企業社会全体に向けられているかのようにも聞こえてくる。

 このシリーズでは、セコムが挑戦する各事業と、それを切り開く「フータ」な人々を紹介していく。第3回目となる今回は、セコムが作り上げた1台のロボットに会いに、東京都三鷹市の「IS研究所」に足を運んだ。(文中敬称略)

 

 幅と奥行き、高さともに30センチメートル前後で重量は6キロほど。大きさといい、形状といい、机の上で沈黙する「それ」は、まるで裁縫用のミシンのように見える。

 セコムIS研究所のチーフエンジニア石井純夫が、上部にある灰色のジョイスティックにあごを載せ、動かす。すると、生命が与えられたかのように、中から低いモーターの駆動音が響き、アーム部が動き始める。

写真、あごでマイスプーンを操作する石井純夫。操作は数回で覚えられるほどやさしい(写真/石井和広)

あごでマイスプーンを操作する石井純夫氏。操作は数回で覚えられるほどやさしい(写真/石井和広)

 事故による頚椎損傷や筋ジストロフィーなどによって腕が自由に動かない障害者のための食事支援ロボットだ。「マイスプーン」と名づけられている。

 腕の先端には、フォークとスプーンが備え付けられている。マイスプーンは、あらかじめ専用容器に小分けにされた食べ物をフォークとスプーンで挟み込むようにすくう。石井の口の前、数センチメートルの空間にスプーンが止まる。石井はおもむろに口を開け、マイスプーンが運んでくれたおかずを頬張ってみせる。

 その動きは実に巧みだった。肉団子や卵焼きなど小さな固まり状の食べ物を挟み取るだけでなく、豆腐を切り分けることも、白米の固まりから適量だけを取り分けることもできる。

 記者は、東京都三鷹市にセコムが構える研究施設「IS研究所」の一室で、石井にその開発の経緯を聞いた。それは11年間に及ぶ孤独な戦いだった。

 

ロボットは「手段」

 「セコムという会社があるよ」

 1987年、東北大学の研究室で指導教官・中野榮二の口にした社名に、石井は意外な思いがした。

 進路に悩んでいた。ロボット研究の第一人者として知られる中野(現在は千葉工業大学工学部・未来ロボティクス学科教授)の下でロボット工学を学んだが、大学の研究室に残るという選択肢は頭の中にまるでなかった。

 石井にとって、ロボットは「目的」ではなく「方法」だったからだ。

 ロボット工学に情熱は感じたが、「ロボットを作りたい」のではなかった。ロボットを作るということで、そのロボットが存在しなければ実現できない「何か」を実現したい。例えば重いものを持ち上げることでもいい。人間が活動できないような環境で何かの作業をするのでもいい。だから、いち早く社会に出たいと思った。企業の中でロボットを作りたい、と思った。

 中でも関心があったのが福祉の分野だ。石井は在学中、福祉ボランティアのサークルに参加し、熱中していた。障害を背負って生きている人たちと触れ合う中で感じた「誰かの役に立つ」という実感は強烈だった。自分がロボット研究第一人者の研究室で学んだ知識や技術を生かして彼らの願いを叶えることができたら、どんなに素晴らしいだろうと思った。自分の腕を動かして介助することで助けられるその数倍の障害者を助けることができるはずだ。

 福祉ロボットを作りたい。夢を描くことはたやすいが、現実は厳しかった。想定されるユーザーの数が少ない障害者向けのロボットは、そもそも「ビジネス」として成り立ちにくい。本腰を入れて福祉ロボットに力を入れている機械メーカーは、石井の見る限りほとんどなかった。途方に暮れつつ指導教官の中野に相談すると、返ってきたのが「セコムという会社があるよ」との言葉だった。

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「苦節11年、若きロボット研究者の夢が実現」の著者

池田 信太朗

池田 信太朗(いけだ・しんたろう)

日経ビジネスオンライン編集長

2000年に日経BP入社。2006年から『日経ビジネス』記者として、主に流通業界の取材に当たる。2012年『日経ビジネスDigital』のサービスを立ち上げて初代編集長、2012年9月から香港支局特派員、2015年1月から現職

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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